| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第69回全国大会 (2022年3月、福岡) 講演要旨
ESJ69 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-020  (Poster presentation)

粘液を介した貝類の情報戦
Information warfare of snails and limpets via mucus

*和田葉子(北海道大学), 岩谷靖(弘前大学), 佐藤拓哉(京都大学), 野田隆史(北海道大学)
*Yoko WADA(Hokkaido Univ.), Yasushi IWATANI(Hirosaki Univ.), Takuya SATO(Kyoto Univ.), Takashi NODA(Hokkaido Univ.)

捕食-被食関係は群集形成プロセスの根幹をなす重要な生物間相互作用であり、両者はお互いの進化や多様な形質維持に重大な選択圧をかけている。そのため、被食者探索や、対捕食者行動に関する研究は数多くの分類群で行われ、その際に用いられる視覚や嗅覚、触覚情報の重要性が明らかにされている。しかし、この情報は短期的に消失してしまうものがほとんどである。一方、情報の中には、糞や尿、摂餌痕、移動跡など比較的長時間有効である情報が存在する。このような情報は、捕食効率を拡大させる可能性がある一方で、被食者種は自らの情報を残すことで捕食者を混乱させ、被食されにくくしている可能性もある。岩礁潮間帯は「貝のパラダイス」ともいわれ、多種多様な貝類が生息している。貝類は “這う”という移動手段をとるが、這うためには粘液の分泌が必要不可欠である。ひとたび基質に残った粘液には這った個体の情報が含まれており、その情報は数日から1か月ほど有効である。そこで本研究では、貝類の“粘液”を介し、捕食者と被食者が繰り広げる情報戦について明らかにすることを目的とした。そのためにまず、岩礁がどれほどの粘液で覆われているのか評価した。その結果、多い時で、1日に1つの転石の80%ほどが貝類の粘液に覆われてしまうことが分かった。次に、室内実験を行い、捕食者肉食性巻貝イボニシと、被食者藻食性笠貝キクノハナガイが互いの粘液に出会った際に取る反応を調べた。その結果、捕食者は被食者の粘液を用いて被食者探索を行っていることが分かった。一方で被食者は、捕食者粘液の存在を感知すると複雑に動き、捕食者種に粘液跡をたどられないようにしている可能性が示唆された。本研究は、岩礁が粘液まみれであること、粘液を介して捕食者と被食者が情報戦を繰り広げていることを明らかにし、岩礁海岸に存在する群集が“ねばねばネットワーク”によって形成されている可能性を示した。


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