| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第69回全国大会 (2022年3月、福岡) 講演要旨 ESJ69 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-025 (Poster presentation)
脊椎動物の死体における甲虫相や微生物叢は,予測可能な形で時間変化することが知られている.しかし,こうした遷移パターンがどのような生態学的メカニズムによって引き起こされているのかは明らかではない.先行研究から,初期入植者であるクロバエ幼虫(ウジ)は,死体の大部分を短期間のうちに消費し,この過程で高熱を発することが分かっている.しかし,ウジによる劇的な死体の状態改変は,少なくとも甲虫相の遷移を駆動する主要因ではないことが示されつつある.一方,多くの微生物が熱に脆弱であることを考えれば,ウジによる熱産生は,微生物叢の遷移パターンに対して何らかの影響を与えているかもしれない.本研究では,2017 年から 2019 年にかけて北海道八雲町の森林に,有害駆除されたアライグマの死体を計 34 体設置し,ウジの入植可能な死体(ウジ非排除区)と,入植不可能な死体(ウジ排除区)において,死体の状態変化を詳細に観察するとともに,甲虫相(ピットフォールトラップによる捕獲)と細菌叢及び真核微生物叢(16S 及び 18S メタゲノム解析)の時間変化を明らかにした.この結果,ウジ非排除区においては,死体は数日のうちにウジ(主にホホグロオビキンバエ)によって消費され,表面温度は 49.5 度まで上昇していたことがわかった.これらの現象はウジ排除区においてはみられなかった.甲虫相及び微生物叢の時間変化には,2つの処理区の間で違いはなかった.すなわち,ウジによる熱産生や消費に伴う物理的改変は,予想に反して,甲虫相だけでなく微生物叢にもほとんど影響を与えなかったことになる.近年の研究によって,甲虫相は,微生物が主に産生する揮発性物質の時間変化に伴って移り変わっていることが分かりつつある.すなわち,甲虫相の遷移は,温度や物理的撹乱に対する抵抗性が高い微生物叢の遷移に依存している可能性が高い.