| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第69回全国大会 (2022年3月、福岡) 講演要旨
ESJ69 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-026  (Poster presentation)

北海道におけるクロオサムシの分布制限要因:寒冷な気候と毒をもつミミズ
Ecological factors limiting the geographical distribution of Carabus albrechti in Hokkaido: cold climate and poisonous earthworms

*奥崎穣(東京大学), 念代周子(弘前大学), 長太伸章(国立科学博物館), 池田紘士(弘前大学), 曽田貞滋(京都大学)
*Yutaka OKUZAKI(Tokyo Univ.), Noriko NENDAI(Hirosaki Univ), Nobuaki NAGATA(NMNS), Hiroshi IKEDA(Hirosaki Univ), Teiji SOTA(Kyoto Univ.)

生物の地理的歴史を推定するには,その在不在に影響する気候や餌資源などの環境要因を把握する必要がある.日本列島に固有のミミズ食オサムシ(オオオサムシ亜属)の1種,クロオサムシは東日本に広く分布しているが,北海道では南部2地域(渡島半島と日高地方西側)といくつかの狭い地域にのみ生息している.一方,日本のミミズ群集はほとんどの地域においてフトミミズ科によって構成されているが,北海道ではツリミミズ科が優占する地域も確認されている.オオオサムシ亜属の幼虫はフトミミズ科では生育可能であるが,ツリミミズ科を餌として利用できるかは不明であり,北海道内でのクロオサムシの断続的な分布域にはミミズ相の地域差が関係しているかもしれない.北海道23地点でミミズ群集の系統構成をDNAバーコーディングで調べたところ,フトミミズ科とツリミミズ科の割合は地域によって異なっていた.フトミミズ科はクロオサムシの分布域には必ず生息しており,それらの地域でツリミミズ科が優占することはなかった.一方,クロオサムシが分布しない地域は,ツリミミズ科が優占する群集とフトミミズ科が優占する群集の両方を含んでいた.クロオサムシの在不在に生息地の年平均気温とミミズの系統構成が与える影響を解析したところ,気温の影響のみが確認された.次に,クロオサムシの幼虫に餌として同所的なミミズ2科のどちらかを与えたところ,幼虫はフトミミズ科とツリミミズ科を区別することなく噛みついた.そして,フトミミズ科を食べた幼虫はすべて羽化したが,ツリミミズ科を食べた幼虫は蛹化前にすべて死亡した.以上の結果から,氷期に本州から北海道に侵入したクロオサムシは,比較的温暖な地域の中でフトミミズ科の地理的分布に沿って分布を拡大したと考えられる.


日本生態学会