| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第69回全国大会 (2022年3月、福岡) 講演要旨 ESJ69 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-031 (Poster presentation)
気候変動による分布域の変化は様々な生物で報告されている.分布域の変化は,局所絶滅と局所加入(以下,絶滅と加入)を通じて,地域スケールでの種組成の空間的な違い(β多様性)を変化させると考えられるが,気候変動にともなう分布域の変化がβ多様性に与える影響は未だ明らかでない.この問いに取り組むために, 1997-2020年の東北地方太平洋沖の深海底生生物群集を対象に,β多様性の時間変化とそのプロセスを定量評価し,どのような生物群がβ多様性の時間変化を生じさせているのかを明らかにした.その結果,β多様性は2003年まで減少傾向にあったが,その後増加傾向にあった.2003年までのβ多様性の減少は,出現頻度が中程度の種が加入して調査地域での出現頻度が上がることと,少数の局所群集にしか出現しない種が絶滅することで生じており,相対的には加入の影響の方が大きかった.また水産有用種の影響はほとんどなかった.一方2004年以降のβ多様性の上昇は,出現頻度が中程度の種が絶滅することと,出現頻度が低い種が加入をすることで生じており,相対的には絶滅の影響が大きかった.また水産有用種の影響は大きくはないものの,β多様性の変化に貢献していた.これらの結果は,β多様性の時間変化には水産有用種だけでなく非水産有用種の出現パターンの変化も重要であり,システム全体での時空間変化の理解が必要であることを示唆する.