| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第69回全国大会 (2022年3月、福岡) 講演要旨 ESJ69 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-033 (Poster presentation)
餌資源を共有する捕食者間で一方が他方を食べるギルド内捕食は、様々な間接的影響が共有餌に生じうることから、複数の外来捕食者が侵入した生態系の保全を考える上で注視すべき構造を持つ。これまで系外資源などの外的要因の影響については多くの知見が得られてきた。一方、共有餌の密度が、ギルド内捕食系の動態に与える影響に注目した研究は少ない。本研究では、豊富な共有餌(オオミズナギドリ)と上・中位捕食者(ノネコ、ドブネズミ、クマネズミ)が生息する伊豆諸島御蔵島において、オオミズナギドリの密度がギルド内捕食系の動態に与える影響を検討した。直接観察によるオオミズナギドリの密度と繁殖の各段階の繁殖成功のモニタリング、炭素・窒素安定同位体比によるノネコ・ネズミ類の食性の推定、生体捕獲によるネズミ類の空間分布、自動撮影カメラによるノネコの密度・生存率・行動範囲の季節変化の推定を行なった。
その結果、オオミズナギドリの繁殖成功に対し、ノネコの密度が負の影響、オオミズナギドリ自身の密度が正の影響を与えていた。これは、オオミズナギドリの高密度営巣が捕食の影響を緩和させる薄めの効果を生じさせていることを示唆する。また、ノネコの食性・生存率・行動範囲の季節変化から、ノネコ個体群を支える餌資源は、夏季はオオミズナギドリ、冬季はドブネズミが重要な餌資源であることが示唆された。さらに、ネズミ類の食性と空間分布から、オオミズナギドリがドブネズミ個体群をも支える重要な餌資源であることが示唆された。このことは、豊富な共有餌(オオミズナギドリ)が、ノネコの直接の餌資源になるだけでなく、冬季の代替餌(ドブネズミ)を増やしていることを示唆している。以上の結果から、高密度に営巣するオオミズナギドリの、(1)捕食に対する薄めの効果と、(2)直接・間接的なノネコへのボトムアップが、このギルド内捕食系を駆動している可能性が示された。