| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第69回全国大会 (2022年3月、福岡) 講演要旨 ESJ69 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-034 (Poster presentation)
淡水性のシジミ属二枚貝は河川と湖沼といった自然水域において、貝殻の堆積を通して他の動物の隠れ家を創出し、種多様性を維持・増大することがある。これは、濾過摂食による水質浄化機能等とともに、シジミ類の生態学的機能の一つとされている。一方で、小規模かつ人工的な水路におけるシジミ類の機能は明らかにされてない。また、貝殻の大きさと機能との関係も不明である。本研究は、(1)水路においてシジミ類の殻の有無と大きさで底生動物相が変化するかどうかを明らかにするため、南九州大学にある人工水路をメソコスムとして使用して操作実験を行った。4処理(小型の殻のみ、大型の殻のみ、小型の殻と大型の殻の混合、貝殻なし)のケージを水路に1ヶ月間にわたって設置し、ケージ内の動物相を調べた。その結果、底生無脊椎動物の合計個体数は、シジミ類の殻があるケージで多かった。また、底生無脊椎動物の種数は、小型、もしくは大型の貝殻のいずれか片方のみがあるケージより、両方があるケージの方が多かった。この結果から、シジミ類の殻は小規模な人工水路において、底生無脊椎動物の隠れ家を形成し、捕食者からの回避に貢献している可能性が考えられた。メソコスム実験の結果に基づき、(2)魚類(タカハヤ)と巻貝類(カワニナ)によるユスリカ科幼虫への捕食の成功率は、シジミ類の殻の有無で異なるかどうかを明らかにするために室内での実験も行った。その結果、タカハヤを入れた水槽では、幼虫の残存率はシジミ類の殻がある水槽で高かった。一方でカワニナを入れた水槽では、幼虫の残存率はシジミ類の殻がある水槽の方が低かった。この結果からシジミ類の殻は、ユスリカ科幼虫が魚類の捕食から逃れるための隠れ家を形成すること、一方でカワニナにとっては付着・移動するための場所になり、捕食効率を高めることが示された。