| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第69回全国大会 (2022年3月、福岡) 講演要旨
ESJ69 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-040  (Poster presentation)

肉食性巻貝ヒメエゾボラの捕食行動:孤食ばかりの個体群と相席が多い個体群
Predatory behavior of the carnivorous whelk Neptunea arthritica

*和田哲, 冨吉啓恵(北海道大学)
*Satoshi WADA, Hiroe TOMIYOSHI(Hokkaido University)

移動・分散力に乏しい動物は、環境の空間変異や時間変動に応じて、形態や生活史、そして行動形質に顕著な表現型可塑性や局所適応を示す。個体群間比較は、そのような形質を発見し、形質変異の意義を探究する第一歩となる。アッキガイ科やエゾバイ科の多くの種は直達発生を示す(卵塊から稚貝が孵化する)。また、海藻に付着しないため、流れ藻に付着して移動する可能性も低い。これらの種では、局所個体群間における形態変異が広く知られており、一部の種では捕食行動の遺伝的な個体群間変異が報告されている。
 エゾバイ科のヒメエゾボラは、浅海域に生息する比較的大型の (腐) 肉食性巻貝である。Fujinaga & Nakao (1999) は、北海道有珠湾で1980-1981年にスキューバ潜水調査を実施して、本種が主に固着性二枚貝のムラサキイガイを捕食していたと報告している。一方、2018-19年に函館湾葛登支岬周辺の潮間帯及び浅い潮下帯で実施した調査では、本種の小型個体は主に移動性巻貝であるヤマザンショウガイを捕食し、大型個体も約半数が巻貝を捕食していた (Yamakami & Wada 2021)。そして函館湾では、固着性二枚貝を捕食していた例はなかった。そこで本研究は、有珠湾と函館湾で本種の捕食行動における個体群間変異を明らかにすることを目的とした。
 2021年4月から2022年1月まで有珠湾の潮間帯及び浅い潮下帯で野外調査を実施し、函館湾の調査結果と比較した。その結果、有珠湾では78例中65例がアサリを捕食していた。また、函館湾における調査結果と比較すると、自身の体サイズに比べて相対的に大型の餌生物を捕食していた。さらに、函館湾では各個体が餌1個体を独占して「孤食」していたが、有珠湾では餌1個体を本種の複数個体が同時に摂食する「相席」中の個体が27個体観察された。発表ではその理由を考察する。


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