| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第69回全国大会 (2022年3月、福岡) 講演要旨 ESJ69 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-042 (Poster presentation)
被食者の中には、接近してくる捕食者から逃避する際に、目立つ行動を行う種が存在する。ショウリョウバッタはそのような被食者であり、オスがキチキチと目立つ音を発しながら逃避することから、キチキチバッタと呼ばれている。このキチキチ音は捕食者を驚かせたり、逃避の途中に発音を止めることで突然消えたかのように目をくらませたりすることで、バッタの生存率を高めると考えられていた。しかし、この仮説はこれまでに検証されていなかった。
キチキチ音の発生が生存率の向上に寄与しているかを調べるため、野外のオス成虫を対象に、標識再捕獲実験を行った。捕獲した個体には標識と共に、後翅の前中脈と後中脈の間の膜と脈の切除、それ以外の後翅の一部の切除、無処理のいずれかを割り当てた。なお、予備実験により、後翅の前中脈と後中脈の間の膜と脈を切除されたオスは、他の処理のオスよりも発音しにくいことが確認されていた。
実験の結果、後翅の前中脈と後中脈の間の膜と脈を切除されたオスと、前中脈と後中脈の間以外の後翅の一部を切除されたオスや無処理のオスとの間に、生存率の差があるとは言えなかった。そのため、発音による生存率向上の仮説は支持されなかった。ただし、無処理のオスでも発音しない場合が観察されているため、発音が生存率に与える影響がはっきりとは検出されなかった可能性が残る。