| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第69回全国大会 (2022年3月、福岡) 講演要旨
ESJ69 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-043  (Poster presentation)

ヘビに保存食は可能か? ~ウミガメの卵で作られた「ピータン」を食べるアカマタ~
Possible preserved food for snakes? Consideration from predation by Lycodon semicarinatus on "pidan" made of sea turtle eggs

*松本和将, 森哲(京都大学)
*Kazumasa MATSUMOTO, Akira MORI(Kyoto Univ.)

いくつかの分類群において食料を保存する種が知られている。例えば、リスやキツツキなどは、種子を土壌や木の幹に埋めて、それらを長期にわたって利用する。一方、爬虫類では、保存食の利用は報告されたことがない。今回、ナミヘビ科のアカマタによる偶発的な保存食の利用を示唆する現象を我々は発見した。沖縄島の砂浜において、アカマタは胚発生が止まってから少なくとも9カ月以上が経過したウミガメ卵を採餌していた。一般にヘビは腐肉を忌避するため、この未孵化卵は特定の条件が揃ったことで腐敗を免れていたと考えられた。その条件の一つに、人工的な保存食であるピータンの製造過程との類似が挙げられる。ピータンの伝統的な製法では、塩漬けのアヒルの卵をアルカリ性の混合物(酸化カルシウム)に数週間浸す。卵殻と卵膜を透過したアルカリが脱水と加水分解によって内部のタンパク質を変性させることで、長期間の保存が可能になる。沖縄島の砂浜は、サンゴなどの生物砕屑物(炭酸カルシウム)で構成された比較的強いアルカリ性土壌であり、台風や高潮により海水を被る頻度が高い。さらに、ウミガメの卵殻は鳥類よりも透過性が高いため、周囲の環境からの影響を受けやすい。この環境と卵の特性によって、ウミガメの未孵化卵はピータンと同様の変化が生じたと考えられた。さらに、砂浜には毎年数千個の未孵化卵が残されるため、アカマタはウミガメの非産卵期にこれらを利用することができる。我々は、ラジオテレメトリー法を用いた追跡調査と砂浜におけるルートセンサスを実施し、アカマタによる未孵化卵の利用頻度を調べた。結果は、アカマタはウミガメの産卵期にあたる4月から9月の期間にのみ砂浜に訪れたことから、非産卵期における利用は確認されなかった。一方、産卵期には新鮮な卵や孵化幼体のほか、古い未孵化卵をしばしば採餌したため、この特殊な餌資源を日和見的に利用していることが示唆された。


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