| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第69回全国大会 (2022年3月、福岡) 講演要旨 ESJ69 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-044 (Poster presentation)
様々な動物群において、利き手のような四肢の運動だけでなく、目や耳といった感覚器の側方化が報告されているが、左右に偏った運動と感覚系の関係は十分に理解されていない。アフリカ・タンガニイカ湖に生息する鱗食性シクリッドPerissodus microlepisは、捕食行動に明確な利きを示す。高時間分解能解析により、鱗食魚が鱗を狙うときには獲物の側面に回り込むため、餌魚側(開口方向側)の片眼だけで相手を捕捉していると推察された。本研究では、開口方向側の片眼の優位性を明らかにするため、視野欠損処理による捕食行動の変化、片眼への視覚刺激による逃避反応性を調べた。
水槽内の餌魚(キンギョ)に対する鱗食魚の捕食行動を観察し、襲撃方向が有意に偏っていた13匹の鱗食魚を対象とした。メタノールを眼球内に注射して片眼を白濁させ視野を阻害し、上記と同条件で捕食実験を行った。片眼の優位性については、視覚刺激に対する逃避運動から検証した。
どちらの片眼を欠損させても、捕食回数はほぼ変化せず、片眼さえあれば捕食行動は可能だった。開口方向とは反対側の眼(右利き個体の右眼、左利き個体の右眼)を白濁させた場合、処理後でも襲撃方向の偏りは変化せず、捕食成功率も高く維持されていた。一方、開口方向側の眼に注射すると、開口側とは逆側からの襲撃率が増加して、捕食成功率は大きく低下した。つまり、本来の利きとは逆側からの襲撃も可能であるが、うまく摂食できないこと意味している。したがって、開口方向側の単眼視野が捕食行動の左右性に重要と示された。つぎに、鱗食魚1匹を入れた細長い水槽の両側にモニター2台を置き、片眼ごとにルーミング刺激を与えて逃避反応を記録した。左利きはランダムよりも右眼からの刺激に、右利きは左眼からの刺激により反応して、利き間では有意な違いがあった。すなわち、開口方向側の視覚は捕食行動の左右性を促すだけでなく逃避に反応しやすいという、運動と一貫した感覚機能の優位性をもつと考えられる。