| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第69回全国大会 (2022年3月、福岡) 講演要旨 ESJ69 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-045 (Poster presentation)
ウミガメ類において、孵卵温度は孵化率や性別、幼体の運動性等に影響することが知られており、昨今の地球温暖化がウミガメ類の生態に与える影響が懸念されている。一方、太古より生存するウミガメ類は、産卵位置や繁殖時期を変化させ、実際に胚が経験する温度を間接的に調節する等、気候変動に適応できる何らかの生態を持つことが示唆される。
東京都小笠原諸島父島に位置する大村海岸は、北部太平洋に生息するアオウミガメの重要な産卵浜の1つである。この海岸は東側と西側で植生の様相が異なり、海岸の東側の産卵巣は主に日陰(低温孵卵)に、西側の産卵巣は主に日向(高温孵卵)となる。そこで、2018年から2021年の間に大村海岸で産卵された737巣の産卵位置を解析し、海岸内の産卵位置が月毎に季節変化するか検証した。結果、気温や水温が高い7月は東側での産卵が多かった。さらに、小笠原諸島近海の月毎の海水温と、東側での月毎の産卵率の間に有意な正の相関関係が認められた。また、ウミガメ類は1回の産卵シーズンにおいて、数週間の産卵間隔で複数回産卵を行う。そこで、2018年から2021年の間に大村海岸で個体識別したメスの内、複数回産卵が確認された38個体の産卵位置を解析し、個体レベルにおける産卵位置の季節変化を検証した。結果、小笠原のアオウミガメは産卵位置に固執性を持つものの、7月に産卵位置を変える場合は西側から東側への移動が多かった。
以上の結果から小笠原諸島のアオウミガメは、環境温度上昇に伴い、孵卵温度が低温となる位置へ産卵場所を変え得ることが明らかとなった。この季節的な行動変化は、気候変動に適応できる生態の1つかもしれない。