| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第69回全国大会 (2022年3月、福岡) 講演要旨
ESJ69 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-054  (Poster presentation)

ツバメは可愛いライバルオスを見逃す
Male swallows tolerate cute rivals

*長谷川克(石川県立大学)
*Masaru HASEGAWA(Ishikawa Pref. Univ.)

動物の求愛行動は奇抜でその意義が不明なものも多い。鳥類にみられるヒナに似た求愛ディスプレイや求愛声はその典型例であり、行動自体は古くから知られるものの、その機能はいまだによくわかっていない。最近ツバメで行なわれた音声再生実験によれば、ヒナに似たオスの求愛声(雛様声)はヒナの声と同様にメスをよく誘引し、ヒナに擬態することでメスの子育て衝動を搾取する感覚トラップとしての機能があるようだ。しかしながら、メスの誘引がヒナに似た求愛行動の唯一の機能とは限らない。ツバメを含む多くの鳥類は雌雄共に子育てするため、オスもまたヒナに似た刺激に対して感覚バイアスをもち、攻撃衝動が損なわれるなどの影響を受けている可能性が高い。本研究では、雄間闘争における雛様声の機能を調べるため、ツバメのオスに対して音声再生実験を行なった。雄のさえずりを流した際は近隣オスによる接近が高頻度でみられたが、オスの雛様声とヒナの声を流した際には近隣オスによる接近がほとんどみられなかった。ただし、オスの雛様声とヒナ声に対する近隣オスの反応は(本来ヒナ声が使われる)育雛期が近づくほど増加していた。これらの結果は、未熟個体に擬態することで、本来の信号受信者であるメスを惹きつけるだけでなく、盗聴者である近隣オスによる干渉を防止できることを示唆している。ヒナに似た求愛行動の存在はこのユニークな二重機能で説明できる。


日本生態学会