| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第69回全国大会 (2022年3月、福岡) 講演要旨 ESJ69 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-056 (Poster presentation)
一緒に生まれ育つ故に、兄弟間では食物や場所、親による世話、交尾相手といった資源をめぐる競争が生じやすい。そのため、母親があらかじめ分散して子を産み落としたり、子の性比を調整することで、子孫間の競争を軽減する行動が報告されている。一方、子自身が血縁認識により行動を変え、兄弟間の競争を避ける事例も報告されている。しかし、血縁認識がなくても兄弟間で性格が異なれば、血縁者間の競争が回避される場合もある。例えば、長男が生まれ育った場所に留まるのに対して、次男は積極的に分散するのであれば、兄弟間の競争は回避される。そのため、兄弟間の性格の違いは包括適応度の観点において重要である。ナミハダニは体長1mm未満の植食性節足動物である。本種雌は複数の雄と交尾するものの、最初に交尾した雄の精子のみを卵の受精に使う。そのため、雄は成虫になる直前のステージの雌にマウントし、近づく雄は攻撃して追い払うといった交尾前ガードが見られる。一方、雌にマウントするものの、戦いには身を投じず雌にマウントし続ける戦術や、マウントせずにひたすら交尾可能な雌を探す戦術も報告されている。雄間闘争は激しく、生まれ育った順番が近い兄弟がいずれも好戦的であると、互いに負傷し包括適応度を著しく下げてしまう可能性がある。そのため、兄弟間では異なる繁殖戦術の傾向が期待される。そこで本研究では、本種雄において生まれ育った順番により繁殖戦術に一定の傾向がみられるのか調査した。その結果、長男は雌へのマウントが積極的であるのに対して、次男と三男は消極的であり、四男では再び積極的になる傾向がみられた。しかし、マウントした雄の中では戦術と生まれ育った順番に明瞭な傾向はみられなかった。そのため、好戦的か否かよりは、マウントそのものに対して兄弟間で傾向の違いがあり、その違いにより兄弟間の競争を回避していると考えられた。