| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第69回全国大会 (2022年3月、福岡) 講演要旨 ESJ69 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-061 (Poster presentation)
ウミニナ属巻貝は日本各地の干潟でよく見られ、堆積物食と濾過食の2つの摂餌様式を持つことが知られている。本属は広緯度に分布することから緯度間の環境の違いによって生態に影響を受けることが予想され、海洋気候の変動による底生動物への影響を評価するためのモデル生物としての利用が期待される。本研究ではウミニナ属巻貝のウミニナBatillaria multiformisとホソウミニナB. attramentariaの濾過速度に温度が与える影響を明らかにすべく、室内での水濾過実験をおこなった。
500mL広口瓶に貝5個体と市販の培養珪藻Chaetoceros calcitransをいれ、20分ごとに濾過の指標として濁度を計測した。実験時間は2時間とした。濁度から換算されたChl.a、PN、およびPOC濃度を用いて濾過速度を算出した。試験区は5℃、10℃、20℃、30℃、および40℃の温度条件、各種で3セットずつ設け、またコントロールとして貝のいない試験区を用意した。
実験の結果、5℃を除く全ての試験区で有意な濁度の低下が確認された。腹足類の濾過食では鰓の繊毛を使って懸濁物を集めるため、低温下での呼吸量低下に伴う濾過摂食の抑制が示唆された。濾過が確認された全ての試験区では実験開始から20分後または40分後で最大濾過速度を示し、以後速度は低下していく傾向が示された。軟体部乾燥重量1gあたりの濾過速度を温度条件間で比較した結果、ウミニナでは30℃と40℃の試験区は10℃および20℃の試験区より有意に高かった。ホソウミニナでは30℃での濾過速度が他の温度試験区より有意に高かったが、10℃、20℃および、40℃間では有意差が検出されず、ホソウミニナの濾過速度は高温により阻害される可能性が示唆された。
本結果から、40℃という高い温度環境下でもウミニナはホソウミニナより活発に懸濁物を濾過することが示された。