| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第69回全国大会 (2022年3月、福岡) 講演要旨 ESJ69 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-065 (Poster presentation)
都市化の拡大にともない、もともと生息していた野生生物は都市環境に適応するか移住するかを強いられる。都市特有の選択圧の一つとして騒音が挙げられる。騒音は音響コミュニケーションを妨げるため、鳥やカエル、直翅目昆虫で騒音に対する音響信号への影響が調べられてきた。多くの研究では騒音の有無で周波数をはじめとする音響信号の物理的特性が変化することが示されている。しかし、その変化が遺伝的なものなのか可塑性によるものなのかは多くの場合不明である。また、その変化がメスに定位されやすくなるといった適応的なものなのかもわかっていないことが多い。そこで、コオロギの一種マダラスズDianemobius nigrofasciatusを都市と郊外の各3個体群から採集し共通環境下で繁殖させ、オスの鳴き声やメスの定位行動を計測した。その結果、都市由来のオスの方が郊外由来のオスよりも鳴き声の周波数が有意に高く、鳴き声の長さが短いことがわかった。これは都市と郊外間の鳴き声の違いが遺伝的であることを示唆する。一方で、騒音の有無をコントロールして都市由来と郊外由来のオスの鳴き声に対するメスの反応をプレイバック実験で調べたところ、騒音下で都市由来のオスの鳴き声がメスにとって定位しやすいわけではないことがわかった。これは鳴き声の変化が適応的な変化ではないことを示す結果である。また、都市由来のメスの方が騒音下でオスの鳴き声に素早く反応することがわかった。これが適応的な行動かどうかはまだ不明だが、メスの定位行動に関しても都市環境に対する遺伝的な変化が生じていることが示唆された。