| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第69回全国大会 (2022年3月、福岡) 講演要旨
ESJ69 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-068  (Poster presentation)

3種類のサンショウウオの孵化幼生は水中のアミノ酸によって成長を促進させる
Dissolved amino acids can promote growth of three species of Hynobius salamander hatchlings

谷村恵奈, *片山昇(小樽商科大学)
Keina TANIMURA, *Noboru KATAYAMA(Otaru Univ. Comm.)

 微生物は環境中の溶存アミノ酸を利用し増殖するが,脊椎動物は一般に,環境中のアミノ酸を直接利用できないと考えられてきた.しかし近年,水生脊椎動物も環境中のアミノ酸を利用できる可能性が指摘されている.この現象が多くの生物に当てはまる事象なら,従来の理論は再構築される可能性があり,さらに,希少動物の保全や養殖技術の進展などの応用面においても大きな発展が期待できる.本研究の目的は,北日本に生息する3種のサンショウウオ(エゾサンショウウオ,トウホクサンショウウオとクロサンショウウオ)の孵化幼生を対象にして,「水生脊椎動物による環境中のアミノ酸の利用可能性」を示すことである.そのため,環境水として2種類のアミノ酸(フェニルアラニンとグリシン)溶液を準備し,水中にアミノ酸を加えた場合と加えなかった場合で,これらの幼生の成長速度を調べた.
 実験の結果,水で飼育したときよりも,エゾサンショウウオではフェニルアラニン溶液で飼育したときのほうが,クロサンショウウオでもグリシンおよびフェニルアラニン溶液で飼育した時の方が成長は速かった.トウホクサンショウウオでは実験期間中の成長速度にアミノ酸の効果はみられなかったが,発育段階を前期と後期に分けてみると,本種でも水のときよりもフェニルアラニンのときのほうが,発育前期の成長は速かった.
 以上の結果から,アミノ酸やサンショウウオの種類,発育段階によって効果の大きさに違いはみられるものの,「高濃度の溶存アミノ酸環境下ではサンショウウオ類の孵化幼生の成長は促進される」ことが判明した.本実験系では細菌を完全には取り除けていないが,環境水中にはサンショウウオ以外の他の真核生物は存在しないことを確認している.したがって本研究の結果は,他の真核生物の媒介がなくても「水生脊椎動物は溶存アミノ酸を取り込む」という、見過ごされてきた栄養伝達経路の存在を示唆する.


日本生態学会