| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第69回全国大会 (2022年3月、福岡) 講演要旨 ESJ69 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-069 (Poster presentation)
湿地や河川などの水面には、アメンボやトビムシ、クモなどからなる節足動物群集が形成されている。とりわけアメンボ類は水面において最も優占する分類群のひとつであり、陸域および水域由来の多様な生物を捕食することから、水面上の捕食者として中心的な役割を担っている。そのため、アメンボ類の適応度に影響を及ぼしうる上位捕食者の存在は、水面に成立する食物網の構造や動態を理解するうえで重要である。しかしながら、アメンボ類を主要な餌として利用する捕食者はほとんど知られていない。
ナルコグモ類は体長2㎜の微小なクモ類であり、水面に垂らした粘性糸で餌を吊り上げて捕獲する習性をもつ。先行研究では中米産の一種がアメンボを捕食することが報告されているが、捕食者の成長段階や餌サイズとの関係を考慮した定量的な食性データは得られておらず、検証の余地があった。そこで本研究では、湿地水面に生息するムナアカナルコグモを対象とした野外調査を行い、餌組成および餌―捕食者サイズ関係を明らかにすることで、本種がアメンボ類の上位捕食者であるかを検討した。
野外観察により、本種がアメンボ類の上位捕食者であることが判明した。本種の餌組成の約50 %はアメンボ科やカタビロアメンボ科などのアメンボ類から構成されており、餌に占めるアメンボ類の割合はクモの成長に伴い増加した。餌―捕食者サイズ関係を解析した結果、両者のサイズの間には明瞭な正または負の関係はみられなかった。また、捕獲された餌のサイズは平均してクモ自身の1.4倍、最大で7倍に達しており、クモの体サイズ増加に伴い餌―捕食者サイズ比は減少した。通常、捕食者が捕獲可能な餌サイズは自身のサイズに依存するため、両サイズ間には正の関係が成立する。一方、本種は微小な幼体期においても自身より大型の餌を捕獲可能であることから、餌捕獲における体サイズによる制約が弱いと考えられる。