| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第69回全国大会 (2022年3月、福岡) 講演要旨
ESJ69 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-072  (Poster presentation)

水温と絶食がオオグソクムシのエネルギー代謝速度に及ぼす影響
Effect of water temperature and starvation on metabolic rate for deep sea giant isopod Bathynomus doederleinii.

*田中章吾, 八木光晴, 小林恒文(長崎大学大学院)
*Shogo TANAKA, Mituharu YAGI, Tunehumi KOBAYASI(Nagasaki university graduate)

【背景・目的】オオグソクムシ属は腐肉食性でクジラなどの死骸を摂食しており、移動性の高い本属は深海生物群集において、“海の掃除屋”として重要な役割を担っている(Hessler etu al., 1978)。本属は長期間の絶食に対して耐性を有し、ダイオウグソクムシは飼育下で1869日間の絶食が報告されているが、生存に必要なエネルギー量であるエネルギー代謝に着目した研究例は無い。本研究はオオグソクムシを用いて、絶食と異なる水温でエネルギー代謝速度の計測を行うことで、何故絶食環境下でも生存可能なのかを明らかにする。
【方法】オオグソクムシを呼吸室に入れ一定期間密閉し、呼吸室内の溶存酸素の減少量とブランクの溶存酸素減少量の差を時間(H)と個体体重(㎏)で除して、代謝量 Mo2(㎎O₂/H/kg)を求めた。実験は下記の様に行った。①異なる水温(15℃、12℃、9℃、6℃)で2週間馴致させた個体の代謝量の測定を行い、10℃上昇した場合の代謝増加率を表すQ10と20℃時換算の代謝量を求め、他生物と比較した。②摂餌後に代謝速度が上昇する特異動的作用(SDA)の測定実験を行った。絶食させた個体に十分量のイカを与え、7日間代謝量を測定した。③絶食期間における代謝量変化の測定実験を行った。十分量の餌を与えた絶食時間が異なる個体の代謝量を測定した。
【結果】実験の結果は以下のようになった。①オオグソクムシ(N=15, Mean=33.7g)の各水温の平均代謝量は15℃で27.9、12℃で14.7、9℃で12.5であり、Q10は15-12℃間10.40、12-9℃間は1.38であった。②SDAの測定でオオグソクムシ(N=8、Mean=31.4g)は体重の33.3%の餌を摂餌し、代謝量は安静時の4.1倍の47.7まで上昇した。③オオグソクムシ(N=18, Mean=34.1g)の絶食1日目のMO₂は32.9±6.9(mg/kg/h)で絶食94日では16.0±1.0であり、絶食日数とMO₂の相関係数は-0.37(p=0.03)であった。今後、ばらつきの大きい15℃の水温における代謝量測定を再度行い、雌雄又は生殖段階別の代謝量速度の解析を行う。


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