| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第69回全国大会 (2022年3月、福岡) 講演要旨
ESJ69 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-103  (Poster presentation)

個体の流れ行列を用いて栄養繁殖を行う個体群の特徴を理解する
Understanding characteristics of clonal plant populations with individual flow matrices

*横溝裕行(国立環境研究所), LAMBRINOSJohn(オレゴン州立大学), 深谷肇一(国立環境研究所), 高田壮則(北海道大学)
*Hiroyuki YOKOMIZO(NIES), John G LAMBRINOS(Oregon State Univ.), Keiichi FUKAYA(NIES), Takenori TAKADA(Hokkaido Univ.)

野外調査により得られる生存率や種子数などのデータを用いて構築される個体群行列から、個体群増加率や弾性度などの統計量が求められてきた。これらの統計量は、生物の生態学的特徴を理解するのに役立つ。私たちは「個体の流れ行列」という新たな統計量を発見し、これまでとは異なった側面から生物の特徴を把握できるようになった。個体の流れは単位時間あたりの生育段階間の個体数の推移の大きさを表し、「個体の流れ行列」の要素の和は個体群増加率と等しいという特徴がある。そのため、どの生育段階間の個体の推移がどれだけ個体群増加率に寄与しているのかを理解することが可能になる。本研究では、栄養繁殖を行う植物と、種子繁殖のみ行う植物の違いを「個体の流れ」に着目して明らかにした。まず、個体群行列データベース(COMPADRE)を用いて個体群行列を求めた。次に、「個体の流れ」を滞留・繁殖・成長に関係するものに分類した。「個体の流れ」が、栄養繁殖を行う植物の特徴を明らかにするために、栄養繁殖の有無を表すカテゴリ変数を説明変数として、滞留・繁殖・成長に分類した個体の流れを目的変数としてディリクレ回帰を行った。このほかに、機能形質(草本か木本)を表すカテゴリ変数、個体群増加率、行列の次元数を説明変数とした。その結果、滞留と繁殖に関する個体の流れには違いがなく、成長に関する個体の流れは栄養繁殖の方が有意に大きいことが明らかになった。栄養繁殖を行う植物も種子を生産するが、その種子生産の個体群増加率への貢献度は、栄養繁殖を行わない植物と有意な違いがないことを意味する。一方で、成長に関する個体の流れは、栄養繁殖を行う植物の方が大きく、個体群増加率に対する貢献度が高いことが確かめられた。


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