| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第69回全国大会 (2022年3月、福岡) 講演要旨 ESJ69 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-104 (Poster presentation)
アイナエは、日当りのよい暖地の低湿地や畔、堤防、墓地などに生育する小さな一年草である。本種は27都府県で絶滅危惧種に指定されており、管理放棄による植生遷移などが絶滅の原因とされている(京都府2015)。また、本種の生育には光条件が重要なことが報告されている(岡崎ら 2014)。
新潟県阿賀野川沿いに造成された運動広場には、本種が年間を通しておよそ数千個体生育している。広場は場所ごと植被率に差異が見られ、本種が多く生育しているのは植被率の低い場所であった。そこで、本研究では本調査地における植被率と土壌環境から本種の生育環境特性の解明を試みた。
UAVから撮影した航空写真で植被率の差異ごとに、植被率低Ⅰ、植被率中Ⅱ、植被率高Ⅲと区分し、その3区分で植生調査・土壌調査・アイナエ個体数調査を行った。土壌(A、B層の厚さと硬度および含水率)と出現した植物の被度については正準相関分析(CCA)を行った。
アイナエが多く確認されたのは区分Ⅰ(植物被率:低)であり、それはアイナエの出現が6月下旬と遅く草丈も低いため、他の植物との競争に弱く、植被率の低い場所でしか生育できないためと考えられる。CCAにおいて、区分Ⅰの土壌環境はB層が硬く、A層が薄い場所であった。本調査地のアイナエの根はわずか1㎝ほどで、薄いA層だけで生活史を完結できる。他区分の優占種はメリケンカルカヤであったが、本種は高茎草本であり、区分Ⅰの土壌硬度が高いB層には根を張ることが出来ないだろう。つまり、区分Ⅰは土壌環境が高茎草本の生育に不適なため裸地化し、その結果、光条件が良好となり、アイナエの生育が可能になると考えられる。絶滅の原因として挙げられる植生遷移についても、本研究により裏付けられ、保全には刈り払いによる遷移の抑制が必要であると考えられる。今後は、他の生育地における生育環境特性について解明したい。