| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第69回全国大会 (2022年3月、福岡) 講演要旨 ESJ69 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-106 (Poster presentation)
光は植物の生育に大きく関わる環境要因であり、その強さはハビタットによって大きく異なる。強すぎる光の下では光阻害が生じ、また弱すぎる光の下では成長に十分な光合成が行えないため、多くの植物種は特定の強さの光を選好して生育する。一方で、幅広い強さの光の下に生育する種も存在し、こうした種はハビタットの光の強さに応じて異なる表現型(光合成特性:葉の内部構造や光合成速度)を示す。この場合、集団間における表現型の違いは光の強さを選択圧として生じたことが考えられるが、この仮説は十分に検証されていない。本研究では、ユキノシタ科のダイモンジソウの明所型(直射日光が当たる風衝草原に生育する集団由来)と暗所型(弱い光しか届かない林床に生育する集団由来)を用いて、それぞれのハビタットにおける光の強さに応じた適応的な表現型分化の有無を検証した。両エコタイプを温室内(強光実験区と弱光実験区)で栽培し、16の形質における環境要因と遺伝要因の影響を区別した。その結果、全ての形質はおおよそ栽培光条件に応じた光合成特性の可塑的な変化を示した。しかし中には、エコタイプ間で遺伝的に異なる形質もあり、明所型は暗所型よりも厚い柵状組織をもっており強光下での光合成速度が有意に高かった。この傾向は自生地に生育する個体と一致することから、明所型は強光に対してより適応的な表現型を獲得していることが推察された。そこで次に、両エコタイプの強光耐性を比較した。その結果、暗所型は明所型よりも、短期(4時間)的な強光照射によるPSIIの光阻害の程度が大きく、また長期(30日間)的な強光下栽培においては葉の枯死率が有意に高かった。これらの結果から、ダイモンジソウの明所型と暗所型では、強光が選択圧となって表現型の分化が生じていることが考えられた。