| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第69回全国大会 (2022年3月、福岡) 講演要旨
ESJ69 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-107  (Poster presentation)

系統情報を活用した多種・広域でのレッドリスト維管束植物の個体数変動推定
Applying phylogenetic models to estimate the nation-wide changes in populations of a broad range of Red List vascular plants

*松葉史紗子(国立環境研究所), 深澤圭太(国立環境研究所), 石濱史子(国立環境研究所), 青木聡志(国立環境研究所), 赤坂宗光(東京農工大学), 田金秀一郎(鹿児島大学), 小川みふゆ(東京大学)
*Misako MATSUBA(NIES), Keita FUKASAWA(NIES), Fumiko ISHIHAMA(NIES), Satoshi AOKI(NIES), Munemitsu AKASAKA(TUAT), Shuichiro TAGANE(The Kagoshima University), Mifuyu OGAWA(The University of Tokyo)

 気候変動や土地被覆の変化といった環境変動がレッドリスト種の絶滅リスクに与える影響が懸念されている。これらの影響の評価には、種間での絶滅リスクの比較や生態的特性と関連付けた議論が有用と考えられる。しかしながら、レッドリスト種には個体群サイズや分布面積が極端に小さい種がしばしば含まれる。そうした種はサンプル数が少なく、解析が困難なケースがあるため、環境変動と結び付けた減少要因の解明や絶滅確率の推定は進みづらい現状がある。
 本研究ではサンプル数が少ない種の絶滅確率の予測を実現するために、多種・広域での系統情報を活用したモデルを構築し、系統情報を考慮しないモデルと予測性能を比較した。多種・広域での系統情報を考慮することで、サンプル数が少ない種に対しても近縁種の情報を用いて推定できるようになり、予測性能がより高いモデルの構築が期待できる。加えて、系統上での絶滅リスクの偏りを明らかにできることから、系統的多様性や生態系機能の低下との議論も可能になる。
 維管束植物の第2次~第4次レッドリストデータ(1010種)を用いて、2時期の地域個体群の絶滅確率の変化を環境変動や直前の個体数階級から推定するモデルを構築した。モデルの応答変数には2時期のうち後期の在不在情報を与え、説明変数には気候要因と土地被覆割合、保護区面積、直前の個体数階級を与え、各説明変数の回帰係数と切片をNearest Neighbor Gaussian Processに従う系統ランダム効果とした。
 解析の結果、系統関係を考慮したモデルは、考慮しないモデルと比べて予測の正確さが上がることが示された。事後分布の平均値から、市街地や農耕地の分布はレッドリスト植物の地域個体群の絶滅確率を増加させる一方で、荒地および保護区は、絶滅確率を低下させる重要な場所になっていることが示された。今回の試行結果を踏まえて、系統情報を活用した個体数変動の推定および保全施策への提案のあり方について議論したい。


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