| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第69回全国大会 (2022年3月、福岡) 講演要旨 ESJ69 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-108 (Poster presentation)
ヤマトグサは,秋田県から熊本県にかけて点々と隔離分布しており,17の府県のレッドリストに掲載されている.それにもかかわらず,佐渡島では島中でヤマトグサの生育がみられる.本研究は,佐渡島内において,ヤマトグサがどんな生育環境に限られるのかを明らかにすることによって,日本全体のヤマトグサの隔離分布について理解することを目的として,佐渡島におけるヤマトグサの分布調査と,GISを用いた分布解析を行った.
佐渡島を3次メッシュ(1辺約1km)で区切ると959メッシュあり,そのうちの374メッシュを踏査したところ,104メッシュでヤマトグサの生育が確認された.ヤマトグサの生育を確認したメッシュを在メッシュ,生育未確認および未踏査のメッシュを偽不在メッシュとして,環境要因(日照時間,平均気温,年積雪量,曲率,SPI)を用い,分類樹木分析を行った.その結果,夏季の日照時間が短いメッシュ,および曲率の低い川沿いのメッシュにヤマトグサの生育地が多いことが示された.このことから,ヤマトグサの生育地は,夏季に晴れの時間が少ない霧が出る場所や,湿った川沿いに偏ると考えられる.
ヤマトグサは,空中湿度の高い場所では節から出た根が露出しており,この根からの水分供給によって長いシュートを維持している様子がみられる.また佐渡島では,果実をあまり見かけなかったことから,シュートによる栄養繁殖が個体群維持に重要と推察される.これらから,ヤマトグサは,夏季に霧が出る場所では個体群の維持が可能であると考えられた.
日本全国のヤマトグサの分布は非常に隔離しているが,湿った川沿いならば日本中にたくさんある立地環境である.ヤマトグサの個体群維持にとっては,霧などによって空中湿度が高い場所が必要で,その周辺の川沿いに生育地を広げることができるのではないだろうか.今後は,隔離分布が生じた地史的背景についても明らかにしていきたい.