| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第69回全国大会 (2022年3月、福岡) 講演要旨
ESJ69 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-110  (Poster presentation)

ヤブツバキとユキツバキの分子系統地理
Molecular phylogeography of Camellia japonica and C.rusticana.

*阿部晴恵(新潟大学), 上野真義(森林総合研究所), 松尾歩(東北大学), 廣田峻(東北大学), 陶山佳久(東北大学), 三浦弘毅(浅虫水族館), Yunguang SHEN(Kunming Botanical Garden), Monghuai SU(Chinese Culture Univ.), Zhong lang WANG(Kunming Botanical Garden)
*Harue ABE(NIigata Univ.), Saneyoshi UENO(Affrc), Ayumi MATSUO(Tohoku Univ.), Shun K. HIROTA(Tohoku Univ.), Yoshihisa SUYAMA(Tohoku Univ.), Hiroki MIURA(Aquarium Asamushi), Yunguang SHEN(Kunming Botanical Garden), Monghuai SU(Chinese Culture Univ.), Zhong lang WANG(Kunming Botanical Garden)

日本ではツバキ属ツバキ節のヤブツバキとユキツバキが自然分布している。2種の分類に関しては、不明確な点が多いため、近縁種を含めた解析を行うことで、これらの系統関係を検討することを第一の目的とした。次に、日本列島、朝鮮半島、中国大陸の沿岸部、台湾に分布するヤブツバキのデモグラフィー解析を行った。ツバキ属の多くは中国南部を中心に多様化しており、ヤブツバキはこの属の分布の北限であるため、大陸から渡来し、日本で種分化したものと考えられる。しかし、現在の集団がどのような分布変遷をたどってきたのかは明らかになっていないため、広域分布種の歴史的な変遷を明らかにすることは、日本の地史を考える上でも重要な知見となる。
cpSSR8座とMIG-seqによるSNPsの解析から、ほぼ一致した結果が得られ、遺伝的構造は南方寄りと北方寄りのヤブツバキ、およびユキツバキの3つのクラスターに分けられた。さらに、中国の近縁種を含む3種の系統関係を推定したところ、ヤブツバキはユキツバキと中国の近縁種Camellia chekiangoleosaよりも派生的な位置づけとなった。ADMIXTURE1.3.0を用いてヤブツバキ種内の遺伝的構造を推定したところ、(1)日本の北寄り集団と(2)日本の南寄り集団、(3)中国沿岸と韓国の集団、(4)沖縄と台湾の集団に分けられた。それらの集団間の交雑個体を除外し、DIYABCによるデモグラフィー解析を行ったところ、まず、沖縄・台湾の集団と日本の北寄りの集団が分岐し、その後日本の南寄り集団が北寄り集団から分かれ、さらに最終氷期後に中国・韓国集団が南寄り集団から分かれたと推定された 。つまり、中国と韓国の集団は日本の南寄り集団から大陸へ南下した集団と予測され、生息適地推定の結果とも一致した。また、日本の北寄り集団は、従来は最終氷期に南下した集団からその後の間氷期に北上した派生的な集団と考えられることが多かったが、むしろ本州に遺存する祖先的集団であることが示唆された。


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