一般講演(ポスター発表) P2-111 (Poster presentation)
標本ゲノミクスで明らかになったアキノキリンソウのユーラシア拡散史
Phylogeographic history of Solidago virgaurea complex across Eurasia uncovered by genome analysis of herbarium specimens
*阪口翔太(京都大学), Alexey P SEREGIN(Moscow State Univ.), Elena MARCHUK(FEB RAS), John SEMPLE(Univ. Waterloo), Li PAN(Zhejiang Univ.), Yinqiong QIU(Zhejiang Univ.), 瀬戸口浩彰(京都大学), 牧雅之(東北大学), 陶山佳久(東北大学), 廣田俊(東北大学), 石川直子(大阪市立大学), Olga CHERNYAGINA(FEB RAS), Hyeokjae CHOI(Changwon National Univ.), 中臺亮介(国立環境研究所), 重信秀治(基礎生物学研究所), 山口勝司(基礎生物学研究所), 伊藤元己(東京大学)
*Shota SAKAGUCHI(Kyoto Univ.), Alexey P SEREGIN(Moscow State Univ.), Elena MARCHUK(FEB RAS), John SEMPLE(Univ. Waterloo), Li PAN(Zhejiang Univ.), Yinqiong QIU(Zhejiang Univ.), Hiroaki SETOGUCHI(Kyoto Univ.), Masayuki MAKI(Tohoku Univ.), Yoshihisa SUYAMA(Tohoku Univ.), Shun HIROTA(Tohoku Univ.), Naoko ISHIKAWA(Osaka City Univ.), Olga CHERNYAGINA(FEB RAS), Hyeokjae CHOI(Changwon National Univ.), Ryosuke NAKADAI(NIES), Shuji SHIGENOBU(NIBB), Katsushi YAMAGUCHI(NIBB), Motomi ITO(The Univ. Tokyo)
北米に多様性の中心があるキク科アキノキリンソウ属において,広義アキノキリンソウはユーラシアに広域分布する唯一の種群である.その分布は欧州からロシア全土を経て東アジアに至り,南北軸では北極圏から亜熱帯域へと広がっている.本研究では本種群がユーラシアに拡散した過程を明らかにすることを目的に,全ゲノム配列を使った系統解析とさく葉標本のMIGseq/SSR分析による集団遺伝解析を行った.系統解析の結果,本種群は北米東部に分布するS. macrophyllaとの共通祖先から第四紀後期に分岐したあとにユーラシアに侵入し,その後に東系統(日本~極東ロシア~中国東部)と西系統(ヨーロッパ~ヒマラヤ)の2グループに分化したことが明らかになった.第四紀後期の氷期にユーラシアでは寒冷乾燥化が進み,とくにシベリアからモンゴルにかけての地域でツンドラや砂漠が拡大した.こうした環境変化に伴い,本種群の分布は東西に隔離され2グループが分化したと考えられた.ENM解析より,最終氷期の寒冷期には分布がさらに断片化したことが予測されたが,当時の氷期逃避地に対応するような地理的集団が集団構造解析から検出された.またEEMS解析では,氷期逃避地と高緯度地域との間に高い移住率を示す複数の移住回廊が推定され,後氷期に北方への急激な分布拡大が起きたことが示唆された.以上より,広義アキノキリンソウはユーラシアにおいて広大な分布と多様な生態特性を示すにも関わらず,その種形成は最終氷期を中心とした短い時間スケールで生じたことが明らかになった.