| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第69回全国大会 (2022年3月、福岡) 講演要旨
ESJ69 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-112  (Poster presentation)

網羅的発現解析による強酸性土壌植物ヤマタヌキランの低pH耐性遺伝子の探索
Comparative transcriptome analysis on low pH tolerance of an extremophyte in highly acidic solfatara fields

*長澤耕樹(京都大学), 瀬戸口浩彰(京都大学), 内藤健(農研機構), 永野惇(龍谷大学, 慶應義塾大学), 石川直子(大阪市大・植物園), 阪口翔太(京都大学)
*Koki NAGASAWA(Kyoto Univ.), Hiroaki SETOGUCHI(Kyoto Univ.), Ken NAITO(NARO), Atsushi NAGANO(Ryukoku Univ., Keio Univ.), Naoko ISHIKAWA(Osaka City Univ.), Shota SAKAGUCHI(Kyoto Univ.)

カヤツリグサ科ヤマタヌキランは東北地方の火山地帯にのみ分布するスゲ属植物で,火山ガスの影響を強く受ける強酸性土壌(pH=2-3)に優占する.本種は非酸性土壌に生育するコタヌキランを姉妹種にもつことから,種分化の段階で新規に強酸性土壌への適応を獲得したと考えられる.さらに両種は,酸性土壌における主要な生育阻害要因であるAl3+への耐性に差がない一方,低pH耐性において顕著な差が見られる.以上から,ヤマタヌキランの種分化過程を明らかにするためには低pH耐性に関わる遺伝的基盤の解明が重要となる.そこで本研究では,強酸性土壌植物ヤマタヌキランとその姉妹種を対象に,pH処理に応じた遺伝子発現変動を比較することで,低pH耐性に関わる遺伝子を抽出することを目的とした.
 最初に参照配列を整備するため,ナノポアシーケンサーから得たロングリードをもとにドラフトゲノムの構築を行った.その結果,ヤマタヌキランでは480Mb・33本の染色体が40本のコンティグにまとまった.次に,Lasy-seq法により得たデータをもとに両種の遺伝子発現を比較した.その結果,両種においてpH処理の有無に応じて発現が変動する遺伝子の中には,先行研究で低pH耐性に関与することが指摘されたSTOP1転写因子の下流遺伝子が多く含まれていた.その一方,種間比較においてヤマタヌキランで有意に発現が上昇した遺伝子の中には,前述のSTOP1下流遺伝子は含まれず,細胞壁形成への関与が指摘されるペルオキシターゼ遺伝子が多く含まれていた.また種間のゲノム比較の結果からは,ヤマタヌキランで数百kbにおよぶ挿入が存在し,その領域に多数のペルオキシダーゼ遺伝子が座乗していることが明らかとなった.以上から,ヤマタヌキランでは種分化以前からSTOP1下流遺伝子が低pHに応答して発現していた一方,火山地帯特有の強酸性土壌への適応にはペルオキシダーゼ遺伝子が重要な役割を果たした可能性があることが推察された.


日本生態学会