| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第69回全国大会 (2022年3月、福岡) 講演要旨
ESJ69 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-121  (Poster presentation)

東日本大震災津波から10年経過した海浜植生の質的変化
Floristic variation of sandy beach vegetation 10 years after the 2011 Great East Japan Earthquake and Tsunami

*島田直明(岩手県立大学), 山岡詩織(岩手県立大学), 早坂大亮(近畿大学)
*Naoaki SHIMADA(Iwate Prefectural Univ.), Shiori YAMAOKA(Iwate Prefectural Univ.), Daisuke HAYASAKA(Kindai Univ.)

 2011年3月11日の東日本大震災を引き起こした地震や津波によって、東北地方は壊滅的な被害を受けた。海岸部の植生や防潮林も多大な影響を受けた。その後、被災地では防潮堤工事や海岸林の再生などの復興工事が行われ、一部の海水浴場では養浜によって砂浜が再生された。ここでは、東日本大震災から10年が経過した海浜植生の変化について調査した結果を報告する。
 調査地点は青森県南部から岩手県にかけて、津波被害やその後の復興工事による砂浜の改変・再生の程度が異なり、かつ震災前(2003年8月)の植生情報(早坂 未発表)が存在する8つの海浜(大須賀(八戸市)、夏井川河口(久慈市)、十府ヶ浦(野田村)、明戸海岸(田野畑村)、根浜海岸(釜石市)、吉浜海岸(大船渡市)、高田松原(陸前高田市))を調査地点として選定し,津波前後の植生を比較した(高田松原のみ震災前データなし)。植生調査は2003年調査と同一の地点で、植物社会学的植生調査手法に基づき,2011年、2021年に行われた。ただし、地形が変化し、海浜植生が認められなかった場合は、その付近にある類似した植生の調査を行った。
 津波による影響が少なかった大須賀や夏井川河口では、津波前後で植生の質的変化は比較的小さく、震災前の植生へ近づいていた。また、津波による影響が大きかった明戸では、震災直後は種組成が大きく変化したが、10年間で津波前の植生とほぼ同様のものに回復した。他方で、津波による影響もあり、かつ復興工事による影響を受けた十府ヶ浦では、震災から10年が経過した現在においても植生の回復は認められなかった。さらに、震災によって砂浜が消失し、養浜やセットバックによって復旧した根浜や吉浜では、震災前とは大きく異なる組成となり、非海浜生の植物が多く出現していた。以上より、調査地域の海浜植生は、津波による影響よりもむしろ、復興工事による影響によって植生の回復状況が異なっているものと考えられた。


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