| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第69回全国大会 (2022年3月、福岡) 講演要旨 ESJ69 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-122 (Poster presentation)
島根県南東部の奥出雲地域で盛んであった「たたら製鉄」では、水の流れを利用して砂鉄を採り出す「かんな流し」という手法が用いられた。奥出雲町の「大原新田」は、「かんな流し」で発生した土砂を用いて新田開発が行われ、江戸時代に棚田が造られた場所である。一枚あたりの田の面積は比較的広く、整然とする棚田の景観は、圃場整備を行ったようにみえる。しかし、周辺の大部分で圃場整備が行われてきたなか、本棚田では行われておらず、伝統的な畦畔が残存している。
そこで本棚田の畦畔植生の特徴を把握することを目的に、畦畔斜面を中心に植生調査を行った。畦畔下部には一部、湿地状の平坦面がみられたため、斜面と区別して調査を行った。また比較のために、付近の圃場整備が行われた畦畔斜面を対象に調査を行った。調査区の大きさは1m四方で、調査区数はそれぞれ50個、10個、40個で実施した。
調査区あたりの出現種数は、大原新田の畦畔斜面では平均28.7種、平坦面では18.7種であった。一方、圃場整備が行われた場所では平均17.1種であった。外来種の比率は、大原新田の畦畔斜面では平均4.4%、平坦面では9.7%であった。一方、圃場整備が行われた畦畔斜面では平均16.4%と、高い値を示した。
出現種のうち植被率の高いものは、大原新田の畦畔斜面ではススキ、クロバナヒキオコシ、チガヤ、ワラビ、コアカソ、ワレモコウで、平坦面ではマアザミ、チダケサシ、ゴウソ、チゴザサ、ヒメシダであった。一方、圃場整備が行われた畦畔斜面では、チガヤ、シラゲガヤ、アカツメクサ、ススキ、ヨモギ、オオハンゴンソウの順であった。このように、伝統的棚田である「大原新田」の畦畔は、出現種が多く、外来種の少ない植生が残っていることが明らかになった。