| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第69回全国大会 (2022年3月、福岡) 講演要旨 ESJ69 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-123 (Poster presentation)
本研究では東北地方の丘陵地に分布するモミ-イヌブナ林の60年間の森林動態を明らかにした.1961年に青葉山丘陵(仙台市)のモミ-イヌブナ林内に20m×150mの調査区を設置し,樹高2m以上の個体を対象に毎木調査を行った.1981年,2011年,および2021年に個体位置をもとにして生存個体を追跡し,新規加入個体とあわせて同様の調査を行った.
調査地には,1961年にモミとイヌブナを含む樹木種42種(常緑針葉樹3種,落葉広葉樹38種,常緑広葉樹1種)の計797個体が出現した.モミが優占しており(RBA53%),イヌブナを含む主要な落葉広葉樹のRBAは22%であった.調査地全体では1961年からの60年間で樹木個体数は34%減少(2021年:526個体)しており,樹種別ではモミの個体数は増加する一方で,落葉広葉樹のほとんどの樹種で個体数は減少していた.2021年ではヤブムラサキなど低木層を構成する種の個体数の増加が特徴的にみられた.主幹のみのBAはモミ,およびアオハダを除く主要な落葉広葉樹で増加しており,全体では63%増加した(1961年:9.31㎡,2021年:14.70㎡).ただし,モミやイヌブナなど林冠優占種のRBAは60年間でほとんど変化がなかった.モミの直径階分布は60年間を通して逆J字型を示した一方,イヌブナを除く主要な落葉広葉樹は1961年には明瞭な逆J字型を示したが,その後は小径木が減少して一山型分布に推移する傾向を示した.イヌブナの直径階分布は,1961年に明瞭な逆J字型を示したのち,1981年には一山型分布となったが,2011年および2021年にはともに小径木の新規加入が見られ,一山型分布の傾向は不明瞭になった.
調査したモミ−イヌブナ林では,林冠木の種組成や主要な樹木の相対優占度は60年間維持されていた.加えて,低木層を構成する種の個体数が増加し,森林の階層構造が発達してきたことが伺えた.