| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第69回全国大会 (2022年3月、福岡) 講演要旨 ESJ69 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-128 (Poster presentation)
棚田畦畔の半自然草原は、草原生植物の主要な生育地である。しかし、圃場整備が行われた畦畔では特定の種群の欠落や外来種の増加などの問題が生じることが知られている。圃場整備は地域の農業の持続のためには不可欠であるため、保全と両立可能な圃場整備手法の確立が急務である。そのためにはまず様々なタイプの圃場整備地で植生への影響を把握する必要がある。
本研究では、山間部で行われた小規模な圃場整備および「丸い圃場整備」が畦畔草原に及ぼす影響を把握することとした。
調査地は徳島県上勝町の未整備の畦畔1ヶ所と圃場整備後の畦畔2ヶ所とした。圃場整備後の畦畔のうち1ヶ所は1990年頃に通常の圃場整備が行われた地区で、もう1ヶ所は2000年頃に曲線型圃場整備(丸い圃場整備)が行われた地区である。これら2ヶ所の圃場整備面積はいずれも約1ヘクタールで、圃場整備事業としては小規模である。これらの場所に1m2のコドラートを複数配置し、出現種とその被度を記録した。丸い圃場整備は、地形や景観の保全を目的として行われたもので、生物の保全を直接的な目的としたものではない。
調査の結果、1m2あたりの平均出現種数は、未整備地では約38種、通常の整備地では約31種、丸い整備地では約22種で、未整備地が最も高かった。種組成を比較すると、未整備地に高頻度で出現したリンドウやアキノキリンソウなどが圃場整備地では欠落し、既存研究と同様の傾向を示した。一方、圃場整備による欠落が指摘されていた種のうち、オガルカヤやアブラススキなどいくつかの種は、整備後の畦畔にも出現した。また、外来種率は整備の有無にかかわらず低く、圃場整備の影響は既存研究の知見に比べると軽微であった。丸い圃場整備と通常の整備の違いは顕著ではなかった。小規模な圃場整備では在来種の再侵入が起こりやすいことや、山間部にあるために外来種の種子供給源が少ないことが関係している可能性がある。