| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第69回全国大会 (2022年3月、福岡) 講演要旨
ESJ69 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-136  (Poster presentation)

サトイモ科テンナンショウ属の仏炎苞にみられる左右性
The left-right handedness of the cylindrical spathe of Arisaema (Araceae)

*松本哲也(岡山大学), 佐藤弘大(岡山大学), 平松勅悦(岡山大学), 邑田仁(東京大学)
*Tetsuya MATSUMOTO(Okayama Univ.), Kodai SATO(Okayama Univ.), Tokiyoshi HIRAMATSU(Okayama Univ.), Jin MURATA(Univ. of Tokyo)

植物の形態が示す非対称性はさまざまな研究分野で注目を集めてきたが,その決定要因は必ずしも明らかにされていない.サトイモ科テンナンショウ属は雌雄異株性の多年生草本で,送粉者を捕らえる罠として機能する筒状の仏炎苞を持ち,その巻き方向には右巻きと左巻きが存在する.仏炎苞は特殊化した葉であるため,葉序が左右性の決定に関与していることが予想される.さらに本属の一部では,年ごとに生じる性転換の前後で花序形態が変化するため,性表現が左右性に影響している可能性もある.そこで本研究では,まず仏炎苞の左右性が示す一般的性質を明らかにするため,(1) テンナンショウ属25種と (2) カントウマムシグサ25集団で右巻き:左巻きの存在比を記録するとともに (3) 同一個体の左右性を年ごとに追跡した.また,左右性の決定要因を探るため,(4) テンナンショウ属11種で性表現,(5) 4種で螺旋葉序の向きとの関係を調べた.テンナンショウ属25種 (n = 2432) とカントウマムシグサ25集団 (n = 392) では,仏炎苞の右巻き:左巻きは1:1だった (カイ二乗検定, P > 0.10).実験圃場の栽培個体 (n = 109) とムロウテンナンショウの野生個体 (n = 41) は,毎年ランダムに左右性を変化させた (Fisherの正確確率検定, P > 0.50).仏炎苞の左右性は性表現とは無関係だったが (n = 661, Fisherの正確確率検定, P > 0.10),葉序とは強い相関があった (n = 623, P < 0.001).以上の結果から,螺旋葉序の向きが仏炎苞の左右性と深く関わっていることが示された.他の分類群では葉序が非対称な葉の発生をもたらすことが知られており,仏炎苞の左右性も葉序の形成過程で生じた副産物の可能性がある.以上の成果は,サトイモ科で騙し送粉が進化する過程で,どのようにして1枚の葉が「落とし穴」に変化したのか探る手掛かりになると考えられる.


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