| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第69回全国大会 (2022年3月、福岡) 講演要旨 ESJ69 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-137 (Poster presentation)
全種子植物のうち90%以上は性染色体を持たず、両性花・雌花・雄花の組み合わせの花を一個体内に咲かせるが、個々の花の性決定メカニズムについては不明な点が多く、どのようにして環境要因が個花の性決定に作用するのか明らかになっていない。本研究では植物が両全性から雌雄性を獲得する進化の途中の表現型の一つとされる雄性両全性同株であるケツユクサ(Commelina communis f. ciliata)を用いて、個体内の資源状態と日長条件が両性花を誘導するメカニズムを花成との関連性において明らかにした。
ケツユクサは花序内で1番目に咲く花は必ず両性であり、結実に成功した場合は2番目に咲く花は雄、失敗した場合は両性を示した。また、この2番目の花の性決定パターンは施肥や同化器官である葉の除去処理に影響されなかった。そのため、2番目の花の性決定は花序内での花間の資源競争により制御されていることが考えられた。実験の結果、1番目の花の開花から24時間以内に子房の発達に伴う子房への資源(窒素、リン)配分は確認された一方で、子房への資源配分に同調する花序の各部位での資源濃度の減少はみられなかった。花柄においては子房の発達に伴う窒素濃度の増加がみられ、花序外からの窒素の流入が示唆された。このことから、1番目の花の子房への資源配分による資源制限が生じるよりも先に性が決定する、別の機構の存在が示唆された。一方、日長条件に対しては、1番目の両性花が結実し2番目に雄花が誘導される状況下においても短日条件を与えると両性花が誘導された。これらのことから、個花の性決定に作用する環境条件は一つではなく、生育条件や時期に応じて柔軟に性決定のシグナルを使い分けている可能性が示唆された。