| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第69回全国大会 (2022年3月、福岡) 講演要旨
ESJ69 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-139  (Poster presentation)

東南アジアのフェノロジーの理解に向けたmulti-species トランスクリプトーム解析 【B】
Multi-species transcriptomic analysis for the community-wide phenology in Southeast Asia 【B】

*徳本雄史(宮崎大学, University of Zurich, 横浜市立大学), 永井信(JAMSTEC), 久米朋宣(九州大学), 清水健太郎(University of Zurich, 横浜市立大学)
*Yuji TOKUMOTO(University of Miyazaki, University of Zurich, Yokohama City University), Shin NAGAI(JAMSTEC), Tomonori KUME(Kyushu University), Kentaro K SHIMIZU(University of Zurich, Yokohama City University)

東南アジアの湿潤熱帯雨林は生物多様性の高い地域でもあり、そこに生育する樹木は多様な開花型や展葉パターンを持つ。一方で、当地は気温や降水量の変動が小さいため、気象条件の機微な変動に応答して群集レベルで同調して開花する現象(一斉開花)なども知られている。種多様性の高い熱帯地域において環境応答の種間差や共通性を明らかにすることを目的として、3科(フタバガキ科、マメ科、カキ科)、6属、11種の合計25個体を対象としたmulti-species トランスクリプトーム解析を行った。調査地では2019年2月から積算降水量が減少し、3〜5月にかけて一斉開花が発生した。開花が起きた前後に採取した芽のRNA-seqを実施し、発現遺伝子量の定量やその後のGene Ontology解析などを行った。フタバガキ科の樹木では、先行研究と同様に乾燥および低温ストレスに応答する遺伝子の発現量が増加した後に開花関連遺伝子の発現量が増加していた。開花個体と非開花個体を比較した種では、花芽形成前に硝酸輸送およびリン酸関連の遺伝子発現量が有意に増加していた。また開花前後において他種からの何らかの刺激を受けているかどうかを確認するため、エチレンシグナル伝達系の遺伝子発現量を確認したが、開花前や開花中ではなく開花後に増加していた。マメ科、カキ科についても、降水量が減少した時期に乾燥応答の遺伝子発現量が有意に増加しており、それらが開花と関連している可能性が示唆された。今回調査対象とした熱帯樹種は、気温や降水量の変化に応答し、開花や展葉などの生物季節的な現象を起こしていることが考えられる。生物多様性の高い熱帯地域における熱帯樹木のさらなる分子生物学的な研究が期待される。


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