| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第69回全国大会 (2022年3月、福岡) 講演要旨
ESJ69 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-140  (Poster presentation)

長期観測データから読み解く貯蔵炭素の樹木結実への貢献度 【B】
Long-term field investigations revealed contribution of stored carbohydrate to tree reproduction 【B】

*韓慶民(森林総合研究所), 壁谷大介(森林総合研究所), 稲垣善之(森林総合研究所), 香川聡(森林総合研究所), 飯尾淳弘(静岡大学)
*Qingmin HAN(FFPRI), Daisuke KABEYA(FFPRI), Yoshiyuki INAGAKI(FFPRI), Akira KAGAWA(FFPRI), Atsuhiro IIO(Shizuoka Univ.)

樹木は、木質器官に主にデンプンと可溶性糖の形で炭水化物を貯蔵する(Non-Structural  carbohydrate、以下NSCと呼ぶ)。NSCは樹木個体レベルにおいて炭素の需要と供給の非同期性を緩和し、植物の生存と成長に重要な機能を果たしているが、結実への貢献は疑問視されている(Hoch et al Oecologia 2013)。本研究では、結実に伴う炭素資源動態、および結実に対するNSCの貢献を評価するため、新潟県苗場山ブナ林を対象に、枝・幹・粗根のNSCの季節変化及び経年変化を測定している。これまでに得られたデータを解析した結果、結実量がNSCの種子生産への貢献に影響を及ぼすことを明らかにした。大豊作年には落葉後の個体のNSC量は大きく減少し、その後2〜3年にかけて再補充した(Kabeya et al  Forestry Research 2021)。 一方並作年には、夏期にデンプン濃度の一時的な低下が粗根と幹ではみられたものの、落葉後までには個体のNSC量は回復した。しかし、小枝では夏期の低下はみられなかった。幹・粗根におけるデンプン濃度の低下は、20年以上前に形成された年輪においても検出された。これらの結果は、根と幹のデンプンは、環境ストレス等の影響によってその年の光合成産物の供給が不足する条件下において、種子生産のような生活史上重要なイベントに対応できるよう備えていることを示している。
本研究ではさらに、葉の炭素安定同位体比を高い時間分解能で測定することで、貯蔵炭水化物由来の炭素と当年の光合成由来の炭素とを区別できることを示した(Han et al Tree Physiol 2016)。この手法を用いて、種子の炭素安定同位体比の季節変化を測定した結果、種子生産のための炭素源は、成長期の中期までは貯蔵炭水化物に依存し、その後、当年の光合成に移行した。この移行時期は枝と幹の成長が終わった時間であり(Kabeya et al Tree Physiol 2017)、種子生産に伴う炭素資源のニーズに対して巧妙にやりくりしていることがわかった。


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