| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第69回全国大会 (2022年3月、福岡) 講演要旨 ESJ69 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-143 (Poster presentation)
種子の発芽は低温や乾燥など定着に不適な環境で芽生えないよう、様々な環境刺激によって制御されている。スギなどの針葉樹では、近年コンテナ容器を利用した苗木生産が普及しているが、播種時の気温によっては発芽が遅延し、生育期間内に十分な成長が望めない恐れがあることから、発芽条件の理解が望まれる。温度を制御したインキュベーターでの発芽実験から、スギの発芽に必要な積算温度について検討したところ、発芽に必要な有効積算温度は母樹によって異なるが、発芽の適温は10~20℃程度と考えられ、気温が10℃を下回る環境では成長に遅れが生じる可能性が示唆された。本研究では、同じロットの種子を熊本、高知、徳島、岡山、静岡、茨城、岩手の全国7カ所に播種し、播種環境の積算温度から各地域の発芽フェノロジーを予測した。3月初旬に播種したスギの発芽は、播種後25日後頃からみられ、播種後40日までに発芽のピークを迎える母樹が多くみられた。温度感受性が高い母樹はいずれの地域でも発芽が早く、発芽フェノロジーは遺伝的に制御されていると考えられた。また、気温の高い南の地域ほど発芽が早く見られた。岩手では発芽に要した日数は他の地域と同程度であったが、他の地域に比べ播種可能な時期が1か月遅かった。茨城の結果から、屋外での発芽フェノロジーは気温と積算温度で概ね予測できるが、予測よりも少し遅延気味に発芽していた。今回は単純に気温を積算したが、生育可能温度に満たない気温は積算しないなど、積算温度の算出方法を補正する必要があるのかもしれない。