| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第69回全国大会 (2022年3月、福岡) 講演要旨
ESJ69 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-144  (Poster presentation)

種子発芽特性および群落組成からみたコカイタネツケバナの生態的特性
The ecological characteristics of seed germination and community composition of Cardamine kokaiensis(Brassicaceae)

*三村昌史(自然環境研究センター), 鈴木伸一(東京農業大学), 青木雅夫(群馬自然環境研究会), 矢島民生(埼玉RD植物種調査団), 三上忠仁(埼玉RD植物種調査団), 長谷川順一(栃木県植物研究会)
*Masashi MIMURA(Japan Wildlife Res. Ctr.), Shinichi SUZUKI(Tokyo Univ. of Agri.), Masao AOKI(Gunma Nat.Env.of the Stu.Assoc), Tamio YAJIMA(Saitama RedData Plants Res.Grp), Tadashi MIKAMI(Saitama RedData Plants Res.Grp), Junichi HASEGAWA(The Bot. Soc. of Tochigi)

 コカイタネツケバナCardamine kokaiensis (アブラナ科)は日本、中国に分布する小型の一年草であり、冬型の生活史を持つ。本種は以前C. parvifloraの学名が充てられコタネツケバナと呼称されていた種と同一であり、これまでに原記載地の小貝川のほか、淀川、揖斐川、渡良瀬川、元荒川、古利根川、鬼怒川などの水系の氾濫原で確認されてきている。しかしながら、生育地点は限定的で年変動が大きい傾向にあり、生態的特性は充分には明らかにされていない。

 本研究ではコカイタネツケバナの発芽適地となる条件の解明を目的として、上昇系・下降系による段階温度法(鷲谷,199)と光条件・保存条件の組み合わせによる種子発芽試験を行うとともに、生育適地となる条件について明らかにするため、埼玉県・茨城県・群馬県・栃木県の自生地において植物社会学的植生調査を行い、群落の組成的特徴について検討した。

 発芽試験の結果、上昇系の弱光下・遮光下では相対的に発芽率が高く、本種は嫌光性種子であることが明らかになった。下降系では最終発芽率はごく低いものの、25℃処理に移した後の最大発芽率の増加がみられ、発芽可能温度域から設定した一定温度系(14℃)および交代温度系(8℃/20℃)では、乾燥保存、冷湿保存(4℃・30日間)、高湿処理(36℃・5日間)のいずれも発芽率が低かったことから、低温による休眠誘導を持つこと、休眠打破にはより高温域の変温条件や長期の高温処理が必要である可能性が示唆された。

 また、自生地の植分はキタミソウ群集、カズノコグサ-カワヂシャ群集、セリ-クサヨシ群集等に比定された。構成種は一年生草本が多くを占め、短期間に生活史を完結するアゼナ群団の種や、春季開花型のタウコギクラスの種の常在度が高い特徴があり、冬季減水裸地のほか、夏季にはヤナギ高木林やヨシ群落等となる立地においても、季節的な植分として成立している特性が明らかになった。


日本生態学会