| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第69回全国大会 (2022年3月、福岡) 講演要旨 ESJ69 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-146 (Poster presentation)
冬期乾田には様々な冬一年草が生育するが、湿った環境にのみ生育する種が多く、路傍など大きく異なる環境に進出できる種はほとんどいない。しかし、イネ科スズメノカタビラは、冬期乾田から路傍まで、様々な人為的撹乱地に生育する。冬期乾田は、夏場は湛水し、落水する冬期も湿った環境が維持される一方、路傍は、夏場は乾燥などの物理的ストレスが強いと考えられる。このように大きく異なる環境に生育するスズメノカタビラにおいて、遺伝構造および発芽特性に集団間分化が見られるか調査した。
大阪、京都、滋賀の棚田と、近隣の路傍より、種子と生葉を採取した。休眠解除処理として、種子を30℃で湿った条件に保つ温湿処理、室温で乾燥した条件に保つ乾燥処理を1〜3か月行った後、5温度条件下で発芽試験を行った。また、水田土壌を充填し常時湛水する湛水区および湛水しない非湛水区を設け、種子を埋土し、3ヶ月後に種子の生存率を評価した。路傍集団の種子は、水田集団よりも休眠が深く、30/20℃以上の高温条件下で発芽率が大きく低下した。これは水分条件が不安定な路傍環境において夏期の発芽を避ける意義があると考えられる。また、埋土種子の死亡率に集団間で有意な違いは見られなかったが、非湛水区において水田集団の種子は埋土中に発根するものが半数近く見られた。水田集団は水田の落水後すぐに発芽し成長を開始するものが多いと推測される。
MIG-seq解析で得られた一塩基多型にもとづき集団の遺伝構造を評価したところ、明瞭に分化した2つのクラスターが見いだされ、一方のクラスターは水田環境にのみ優占し、もう一方のクラスターは水田と路傍の両環境に見られた。従って、水田環境に局所適応している水田型と、水田と路傍両方に見られる多環境型が存在することが示唆された。路傍に見られるタイプは、国際貿易の拡大とともに近年日本に侵入してきたとの見方もあるが、その由来については今後検討が必要である。