| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第69回全国大会 (2022年3月、福岡) 講演要旨 ESJ69 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-150 (Poster presentation)
ヒルギ科は、アジア太平洋域のマングローブ林を構成する主要植物で、日本にはメヒルギ、オヒルギ、ヤエヤマヒルギの3種が生育する。3種は、母樹についたまま胚軸を伸長させてから落果させる「胎生種子散布」という散布様式を持っており、落果した散布体は休眠せずに生育を開始する。北限に近い日本では、3種の散布フェノロジー(散布時期の気温レンジ)が異なっていることから、当年生稚樹の生理機能の温度依存性は3種で異なっている可能性がある。本研究では、西表島で採集した3種ヒルギ科植物の胎生種子を4段階の気温下(15・20・25・30℃)で栽培し、葉と根の酸素呼吸速度の温度依存性および2つの呼吸鎖末端酵素(COXおよびAOX)のタンパク質量を計測した。
3種とも、低温下で栽培した個体ほど葉の酸素呼吸速度が高くなる傾向を示したが、根では酸素呼吸速度が低くなっていた。このことは、葉の方が根より低温耐性が高いことを示唆している。酸素呼吸のキャパシティは、低温測定下での呼吸速度RREFで示される。3種の中で、最も寒い季節に胎生種子を散布させるメヒルギでは、低温下で栽培した個体の葉のRREFが大きく増加していた。一方で、散布が暖かい季節に限定しているヤエヤマヒルギは、低温下で栽培した個体の根のRREFが顕著に低下していた。また、メヒルギの葉と根、およびヤエヤマヒルギの葉では、酸素呼吸反応の活性化エネルギーEoが栽培温度によって変化していた。Eoの変化がAOX/COXの量比と関連付けられたことから、生育温度に対応させて呼吸鎖の電子分配が変化し、Eoに影響していた可能性がある。一方で、オヒルギでは、葉と根の双方で栽培温度によるEoの変化は見られなかった。このことは、オヒルギの胎生種子の散布期間が長く、幅広い気温下で当年生稚樹が定着していることと関係があるのかもしれない。