| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第69回全国大会 (2022年3月、福岡) 講演要旨 ESJ69 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-151 (Poster presentation)
一般に、湿原はスゲやヨシが優占するフェンからミズゴケが地表面を覆うボッグへと遷移するが、その遷移に伴う土壌の強酸性化により、有機物分解が著しく抑制され炭素蓄積速度は大きく上昇する。また同時に、こうした強酸性環境は、湿原植物の様々な生態生理的振る舞いや分布を特徴付ける重要な駆動力となっている。これらのことから、湿原における強酸性環境の存在は、生態系機能や植生分布機構の維持において、極めて重要な位置づけにある。
ボッグで特異的に生じる強酸性化は、ミズゴケによる陽イオン交換との関連性が古くから指摘されてきた。ミズゴケは根を持たないため、シュートの表面全体が栄養塩類の強力な吸着サイトとなっており、シュート周辺のCa2+、Mg2+、Na+、K+、NH4+といった陽イオンを体内由来のH+で置き換えることで吸着・吸収を行っている。その陽イオン交換で放出したH+がミズゴケ周囲の強酸性化をもたらしていると考えられている。ミズゴケの陽イオン交換能力は、これまでCEC(Cation Exchange Capacity)で表され、シュートの乾重あたりで評価されてきたが、立地のpH環境との対応関係を直接的・定量的に扱った事例は極めて少ない。
本研究では、乾重あたりのCECだけでなく、現地でのミズゴケの被度・種組成・シュート密度等を反映させた面積あたりのCECを求め、土壌水pH環境との定量的な対応関係について検証した。別寒辺牛湿原のFenからBogにかけて50地点の調査定点を設置し、出現する主要なミズゴケ類6種のパッチを対象に、群落調査・サンプリング・各種分析を実施した。
乾重あたりのCECは、Fenに分布する種群でむしろ高い傾向を示した。しかし、ミズゴケのシュート重量・密度を反映させたミズゴケパッチ面積あたりのCECは、チャミズゴケ等のBog種群で高い値を示した。そして、分布被度や種組成を反映させたコドラート面積あたりのCECは、土壌水pHと強い負の相関関係を示し、強酸性環境のBogではFenの25倍以上の値(約0.5eq/m2)となった。