| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第69回全国大会 (2022年3月、福岡) 講演要旨 ESJ69 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-156 (Poster presentation)
木本植物は個体成長に伴って成長フェーズから繁殖フェーズに変化する。フェーズ変化に伴う個体の成長量の変化を調べるため,北海道大学苫小牧研究林クレーンサイトに生育するカエデ属2種を対象に,色々なサイズの個体について,樹高,胸高直径,開花量,結実状況を計測した。さらに樹高9m以上の個体について,23年前のデータと比較することで樹高・肥大成長量を算出した。また,個体の樹高成長量が変化するシュートレベルのメカニズムを検討するため,林冠クレーンを使用して樹冠にアクセスし,樹高成長を担う樹冠頂部の当年枝の数や伸長量,結実の有無を計測した。
イタヤカエデでは,樹高成長に伴い樹高成長量は単調減少した一方,肥大成長量は樹高約15mの個体で極大値をとった。当年枝の最大長,再生産数(親枝1本あたりから生産される娘枝の数),総伸長量(同じ親枝から生産された娘枝の長さの合計)は樹高約9mの個体で最大であった。安定的な結実は樹高約15mで開始された。つまり本種は,林冠層下部(地上9m)に達するまでは光環境の改善に従って伸長・肥大成長量を増加させ,林冠層内(9m~)に入ると肥大成長は維持しつつ伸長成長を低下させ,林冠層上部(15m)に達した後は,結実を開始し肥大成長も低下させていた。一方オオモミジの開花・結実は,林冠層上部に到達していない樹高約12mで開始された。しかし樹高9m以上の個体では,繁殖の有無や個体サイズによらず,樹高・肥大成長速度はほぼ一定であった。個体成長に伴い当年枝の最大長は変化せず,頂芽優勢が弱まって当年枝長が均一化する傾向がみられたが,この変化も繁殖の開始とは関係がなかった。
以上のように,イタヤカエデでは光環境に対応して急激にフェーズ変化が起きたが,オオモミジの成長はサイズに依存して緩慢に,繁殖と無関係に変化しており,近縁2種が大きく異なる生活史戦略をとっていることが示唆された。