| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第69回全国大会 (2022年3月、福岡) 講演要旨
ESJ69 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-157  (Poster presentation)

モミ属の枝下高の低い林冠木では主幹の長い個体ほど樹高成長が低下してきたか? 【B】
Had taller trees been decreasing height growth greater in Abies canopy trees of short clear length? 【B】

*関剛(森林総研北海道)
*Takeshi SEKI(FFPRI, Hokkaido)

森林群落の林冠層で生存し続ける樹種において、林冠に達した個体は、中長期的には繁殖器官の生産を持続しながら成長する。光合成生産に必要な葉群は光条件のよい空間に配置されることが重要であるため、周囲に樹木が近接する状況においては樹高成長を保ちながら葉群を配置することが重要になる。一方、枝下高を低い状態で保つことのできる光条件下では、周囲に樹木が近接する状況より樹高成長量が低くても光条件のよい空間への葉群配置が相対的に容易である。このため、繁殖開始後も枝下高を低い状態で保っていた個体では、時系列的には樹高成長の低下傾向が検出される可能性がある。モミ属の一種であるアオモリトドマツ(Abies mariesii)では、チシマザサ群落の中で、枝下高が低く、主幹・枝の損傷が少ない樹形で樹高17-18 m程度まで成長している個体が存在する。本研究では、枝下高が低い状態で成長を続けた10個体について、萩原ら(2018)による状態空間モデルを用い、1971-1990年の20年間の樹高成長(主幹の伸長成長)を対象に時系列的な変化傾向を調べた。成長量計測は奥羽山脈・八甲田山系の亜高山帯下部で1992年に行った。樹冠に登り、主幹先端で分枝した枝の分枝年次を確認して、主幹の伸長年を決定した。解析対象期間の期首の樹高は8.3-15.4 mである。解析対象個体では、8個体で1980年ごろまで変動が確認された。1990年までの10年間の変化は10個体いずれにおいても小さく、低下を示す個体から上昇を示す個体まで、個体間で変異がみられた。また、解析対象期間の期首における樹高とその後の樹高成長の時系列的な変化との間には特定の傾向はみられなかった。繁殖開始後の樹高成長において、枝下高が低く保たれる光条件下でも生理的に最大樹高に達する状態に近づいていない場合には、樹高成長の中長期的な低下は生じない可能性が示唆される。


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