| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第69回全国大会 (2022年3月、福岡) 講演要旨
ESJ69 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-162  (Poster presentation)

冷温帯樹木とつる植物の茎通導・水利用の季節性
Seasonal patterns in stem hydraulic conductivity and water use of cool-temperate trees and lianas

*市橋隆自(九州大学)
*Ryuji ICHIHASHI(Kyushu Univ.)

温帯生つる植物の通導・水利用の特性、特に冬期の寒冷に対する反応は、つる植物の世界的な地理分布パターンにも深く関わる重要形質と目されているが、情報は極めて少ない。本研究ではつる植物の通導特性を探る第一歩として、九州大学宮崎演習林に優先する樹木9種 [環孔材種:ミズナラ、クリ。散孔材・根圧種(春の展葉前に幹に開けた穴から水滲出を確認):ミズキ、ミズメ、ヒメシャラ、アカシデ、コハウチワカエデ。散孔材・根圧未確認種:ブナ、ホオノキ]、つる植物4種(環孔材種:フジ、ツルウメモドキ。散孔材・根圧種:サルナシ、マツブサ)を対象に、茎切片の通導度と、茎基部の樹液流速の測定を行い、その季節変化の様子を解析した。

夏期の茎通導度(specific conductivity)は、樹木では2~6 kg s-1 m-1 MPa-1の範囲であったが、つる植物の環孔材種は30 kg s-1 m-1 MPa-1前後、散孔材種は80 kg s-1 m-1 MPa-1前後と、極めて高い値を示した。つる植物は遠位の葉面積が大きいため、葉面積あたりの通導度を計算すると、環孔材つる植物では樹木と同程度、散孔材・根圧つる植物種では2倍程度となり、樹木との差は小さくなった。冬期(2月初旬)、つる植物と環孔材樹種は通導機能をほぼ完全に失っていた一方、散孔材樹種の多くは、夏期の50%以上の通導機能を維持していた。展葉期(5月)、樹木・つる植物とも環孔材種では未だ通導度が低かった(夏期の10~20%程度)一方、その他の種では、夏期と同様の通導機能を示した。樹液流の測定からも同様の季節変化の様子が確認された。以上、これまでのところ、夏期の高い茎通導度など、つる植物に共通する特徴が見つかる一方、寒冷に対する反応において、環孔材的に当年の導管のみに通導を頼るか、展葉前に根圧を用いて通導を回復させるかという、異なる対処の仕方が、樹木とつる植物の双方に存在することが明らかになった。


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