| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第69回全国大会 (2022年3月、福岡) 講演要旨 ESJ69 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-164 (Poster presentation)
緑化樹は環境を調節する機能を持つが、温暖化による樹木の衰弱が観察される現在、充分に環境調節機能を発揮できない可能性がある.また、樹木は生育環境に対し短期的に対応する順化能力があり、高温環境に速やかに順化できる能力を持つ樹種を適切に植栽することで、温暖化を考慮した持続可能な緑化を実現できると考えられる.順化反応のメカニズムは未だ明らかになっていないことが多いため、本研究では加温に対する樹木の葉の生理的・形態的反応の違いを調べ、高温環境における植栽に適した樹種を検討することを目的とした.
街路樹として用いられることの多い常緑・落葉広葉樹17種について、2~4年生の苗木を用意した.これを異なる温度の温室(対照区・加温区)内で1樹種につき4個体ずつ5月から10月まで生育させた.高温耐性の指標として、温度上昇により光量子収率(Qy)が半減する温度(T50)を算出した.T50が対照区より加温区で有意に上昇した場合、葉が高温順化したとみなした.また、高温順化に伴う光合成器官の変化の指標として葉重/葉面積比(LMA)および単位面積あたりのクロロフィル濃度を対照区・加温区で比較した.
実験の結果、常緑樹3種、落葉樹4種でT50が上昇した.クロロフィル濃度はほとんどの樹種で変化が見られなかったが、常緑樹では増加、落葉樹は減少する傾向がみられた.T50が低下する傾向を示したヒイラギ・ヤマモミジを除く樹種では、T50の上昇量とLMAの増加率に正の相関が見られ、高温耐性を獲得した樹種に葉を厚く小さくする形態的順化が認められた.一方、T50の上昇量と重量あたりクロロフィル量の増加率には相関がみられず、高温順化に伴う資源配分の変化は総クロロフィル量に影響しない可能性が示唆された.高温順化の有無が常緑・落葉による違いや北方・南方産などの生態的特性による傾向で分けられなかったことから、順化様式の検討は樹種ごとに行う必要があることが明らかとなった.