| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第69回全国大会 (2022年3月、福岡) 講演要旨 ESJ69 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-165 (Poster presentation)
丹沢山地では1980年代頃からブナやモミの衰退が報告されており、酸性雨や酸性霧あるいは大気汚染物質の影響が指摘されてきた。特に1990年代から2000年代にかけては実態や原因の解明に向けたさまざまな調査研究が行われ、丹沢山塊山頂付近や風上側で特に衰退が激しいこと、その他の樹種でも衰退がみられることなどが報告されている。しかし、その後に広域での調査はあまり行われておらず、現在、森林の衰退がさらに進行しているのか緩やかになっているのかは明らかではない。
そこで本研究では、丹沢山地全域について複数年の衛星画像データを取得し、植物の活性度を示す正規化植生指数(NDVI)を指標とした森林衰退状況を調べた。具体的には2007、2011、2016年の高解像度SPOT衛星画像と、複数時期のLandsat衛星画像を取得し、斜面方位や植生などで地域分けを行った上で、年代間の比較を行った。解析の結果、東丹沢東部では2011年頃まで正規化植生指数の低下がみられ、少なくともこの時期まではこの地域での衰退が進行し続けていた可能性が高いことが示唆された。これには、東丹沢東部が首都圏に最も近く、大気汚染の影響を受けやすい地域であることが影響しているかもしれない。ただし、それ以降の年代では改善がみられており、山地全体では森林衰退からの回復傾向にあるのではないかと思われる。2011年頃は大気汚染の最後のピークがあった時期であり、以降の汚染の改善によって森林衰退に歯止めをかけることができている可能性が考えられる。一方、斜面方位と植生分類で作成したグループ間では年代間での変化にあまり違いがみられず、斜面方位や植生よりもエリア間での違いが大きいことが分かった。本研究ではさらに、森林衰退の原因の一つと考えられている酸性霧を実験室内でブナに暴露する実験も行い、その際の遺伝子発現の変化についても比較を行った。発表ではその結果についても合わせて報告する。