| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第69回全国大会 (2022年3月、福岡) 講演要旨 ESJ69 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-166 (Poster presentation)
山岳地帯では、標高の上昇に伴って、気温の低下、土壌水分や栄養塩の低下、冬季の積雪および土壌凍結が起こる。従って、常緑・落葉という特性や、同一樹種においても生育標高によって、樹木の葉の水利用特性に違いがある可能性が高い。そこで本研究では、長野県北アルプスの乗鞍岳において、標高1600、2000、2500 mに生育する常緑針葉樹のオオシラビソ(Abies mariesii)と落葉広葉樹のダケカンバ(Betula ermanii)を対象に、P-V曲線法を用いて葉の水分特性を比較し、山岳地帯の樹木の標高上昇に伴う水分生理的適応を解明することを目的とした。測定は、両樹種の葉の成熟度に沿って2020年8月から10月にかけて4回行った。
オオシラビソの葉では、萎れ点の水ポテンシャル(Ψtlp)、飽水時の浸透ポテンシャル(Ψsat)および萎れ点の相対含水率(RWCtlp)が三標高で10月にかけて低下し、10月には高標高ほど低い値を示した。オズモメーターで測定した溶質濃度から算出した浸透ポテンシャル(Ψsat_osm)も、10月の当年葉において高標高ほど低い値を示した。一年葉においても同様の傾向を示したが、有意差はなかった。一方、細胞壁の弾性率(ε)は、三標高で10月にかけて上昇し、10月には高標高ほど低い値を示した。従って、オオシラビソは、高標高ほど浸透調節により耐凍性を高めて低温に対して適応し、また柔らかく失水しても萎れにくい葉を持つことで利用可能な水分量の制限に適応していると考えられる。ダケカンバの葉は、Ψsatに季節および標高間で有意差はなかった。Ψtlpは、8月には1600、2000 mより2500 mで低く、9月下旬には2500 mでもっとも高かった。一方、RWCtlpは、全期間を通して2000 mより2500 mで低く(1600 mはばらつきが大きく、差がなかった)、またεも高標高で低い値を示した。従って、ダケカンバは、オオシラビソと同様に、高標高ほど柔らかく、失水しても萎れにくいという特徴の葉を持つが、葉の浸透調節能には季節や標高間で違いが見られなかった。