| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第69回全国大会 (2022年3月、福岡) 講演要旨 ESJ69 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-168 (Poster presentation)
植物は呼吸によりエネルギーを得て、炭素・水を獲得して、個体毎に環境適応し成長する。一般的に、個体呼吸の【環境・系統・遺伝子による制御】が主要な研究課題である。一方、サイズに応じ個体呼吸がシフトする【サイズ制御(ontogeny)】も認知される。しかし、両者の兼ね合いは未整理である。これは生態系のパターンとスケールを網羅した陸上植物個体呼吸の「広いサイズ幅での正確な多数実測」が困難なためである。さらに、個体呼吸測定を目的とした装置はなく、既成光合成測定装置は個体呼吸測定には不向きである。
そこで、「芽生え~巨木(H=34m)、優勢~枯死寸前個体、シベリア~熱帯を網羅した約1500個体の草本、木本、タケ(地上部のみ)」の根を含む個体呼吸を1個体毎に正確に実測する装置・方法を開発した。(同一温度条件での)個体呼吸を両対数軸上で個体生重量を説明変数にして分析した。その結果、樹木、草本、タケ(地上部)のすべての陸上植物の個体呼吸は、両対数軸上のほぼ同範囲内に安定的に収まったが、草本モデルの傾きは樹木より有意に高かった。
呼吸制御は、従来議論されてきたように限定スケールや器官レベルでは環境・系統・遺伝子が主要因である。しかし、あらゆる生物の個体呼吸は飢餓で死なないように調整され、呼吸基質は貯蔵され、ストレスなどで枯死寸前に不足資源の供給再開があると個体呼吸上昇とともに成長回復する。この【レジリエンス】は樹冠ギャップや多様なストレスからの回復個体で頻繁に測定された。その結果、【環境・系統・遺伝子による個体呼吸差】は、レジリエンスに生じる「個体呼吸のゆらぎ」に吸収され消滅した。結局、パターンとスケールを網羅したサンプリングを行うと、個体呼吸は主に個体サイズに依存する上に凸の非線形傾向が顕著になり、物理化学的に植物個体のエネルギーフローを制御するスケーリングをベースラインとした柔軟な持続的成長を実現できるのだろう。