| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第69回全国大会 (2022年3月、福岡) 講演要旨 ESJ69 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-171 (Poster presentation)
光は植物の光合成にとって不可欠であるが、葉への照射光が強すぎる場合、光化学系Ⅱ(PSⅡ)に損傷を引き起こし、光合成活性の低下を導く(光阻害)。 植物には光阻害を防ぐ光防御機構が備わっており、PSⅡが過剰な光エネルギーによる光阻害を抑える光防御機構の中に、損傷を受けたPSⅡを修復する能力が挙げられる。また、光阻害は、光損傷の速度が修復の速度を上回った時に起こり、光阻害のメカニズムを理解するには、光損傷と修復の2つのプロセスに分けて解析する必要がある。光阻害のメカニズムは主に草本植物を用いた研究により解明されてきたが、木本植物を用いた光損傷(光不活化)と修復に関する報告は少ない。
本研究では、様々な環境に生育する樹種を選定し、木本植物12種を対象として光阻害の評価実験を行い、木本植物における光阻害防御機構について樹種間比較を行った。これにより、光過剰な環境下で起こる光阻害の機構と、それを防ぐ光防御機構に関して考察した。
本研究の実験は、PSⅡ修復に不可欠な葉緑体のタンパク質新規合成を阻害するリンコマイシンの存在下および非存在下で、葉に強光を照射し、クロロフィル蛍光を測定することで行なった。照明時間に伴うPSⅡ活性の変化は,光不活性化の損傷速度定数(kpi)と修復の速度定数(krec)を算出して比較した。その結果、12種の木本植物は、1) リンコマイシン存在下でもPSⅡの光損傷が進みにくい樹種群、2) 光損傷を受けるが修復能力によりPSII活性を維持する樹種群、また、3) 強光下で修復能が機能せず光阻害を受けやすい樹種群のおよそ3パターンの傾向に分かれた。そこで各々の光阻害防御機構について、葉における光エネルギー分配の観点から考察した。また、12種の木本植物の生育環境の違いや葉の形態的特徴も含めて生態学的観点からも考察した。