| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第69回全国大会 (2022年3月、福岡) 講演要旨 ESJ69 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-174 (Poster presentation)
日本の都市部において、自動車などから排出される大気汚染物質である窒素酸化物(NOx)の問題が特に顕著となったのは1985年以降である。1990年代なかば以降は大気中のNOxの量は全般的に着実に減少しているものの、交通量が多い地点ではNOxの量が環境基準濃度を上回ることがあるなど、都市における大気汚染は、日本においても決して過去の問題ではない。
都市に植栽されている街路樹は、樹冠での大気汚染物質の吸収や捕捉、緑陰形成による高温化の抑制、光合成による二酸化炭素の吸収などの多くの効用を持つ。光合成は街路樹の生長や生存を支える生理的な働きであるため、光合成機能を維持することは都市部で樹木が生存していくためには必須である。しかし、光合成機能は大気汚染をはじめとする様々なストレスに対して非常に敏感である。
街路樹の光合成機能が受けている大気汚染ストレスを診断するため、2007年から2019年にかけて主要な街路樹種4種を対象に、調査を行った。交通量が異なり、大気中のNOxの濃度が異なると予想される調査地を京都市内で21か所選定した。2016年と2017年度に低木のヒラドツツジとシャリンバイ、高木のイチョウおよびソメイヨシノの枝を採取し、葉の光合成機能を解析したところ、ヒラドツツジ、シャリンバイ、ソメイヨシノはNO2濃度が高い調査地で光合成機能が低下しているのに対して、イチョウでは逆の傾向を示した。2007年-2019年の年次データをヒラドツツジについて解析した結果、大気中のNO2が高いほど光合成機能は低く、Δ13Cが小さかった。京都市内において光合成機能とΔ13Cをマッピングしたところ、京都駅周辺の交通量が特に多い地点でヒラドツツジの光合成機能は低くΔ13Cは小さくなることが明らかになった。