| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第69回全国大会 (2022年3月、福岡) 講演要旨
ESJ69 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-182  (Poster presentation)

ため池が餌生物の spillover を介して猛禽生息地としての農地の機能を高める? 【B】
Farm ponds may enhance ecological functions of farmlands as raptors' habitats through spillovers of prey? 【B】

*藤田剛(東京大学)
*Go FUJITA(University of Tokyo)

 農地のため池は一年をとおし水が安定して存在する場合が多く、様々な水生生物の重要な生息地になっていることが知られている。ため池は、日本の農地に広く見られる景観要素であったが、外来種侵入や管理放棄などによる影響に加え、近年は、防災などの目的でため池を減らす動きも始まっている。
 演者らは、里山の象徴種とされる高次捕食者サシバを対象に日本全域にわたる本種の生息地選択の研究を進めてきた。サシバは、カエルなどの両生類を主な食物とする。サシバは主にカエルの成体を捕食するが、変態後に上陸した成体が周囲の水田や森へ移動したり、本来は水田など不安定な水域を利用しないカエル種がため池から移入したりすることで、ため池周辺の農地が、サシバ生息地として機能している可能性が考えられる。
 ウシガエルなどの外来種が侵入していないため池が多数分布する東北東部、北上川中流に位置する農地景観を対象に、繁殖するサシバとカエルの分布とため池の関係を、他に重要と考えられる要因とともに調べた。調査地は約5km四方の範囲で、水田と二次林がモザイク状に広がっており、10−30m四方の小さなため池が約250か所確認されている。全域のサシバの分布とため池や水田、草地、森のなどの配置を調べるとともに、無作為に選んだため池や草地、水田のカエル類などの密度を調べた。
 その結果、サシバの分布は、ため池の分布および冬期の積雪量の分布と正の関係をもっていることが明らかになった。また、主要な餌生物とされるトウキョウダルマガエルの分布も、ため池周辺で高密度だった。以上から、サシバの分布北限にあたる岩手県中部では、ため池がサシバの餌生物であるトウキョウダルマガエルなどの主要な生息地として機能しているため、サシバがため池のある農地を繁殖場所として選好している可能性があると考えられた。


日本生態学会