| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第69回全国大会 (2022年3月、福岡) 講演要旨 ESJ69 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-185 (Poster presentation)
里山における人の働きかけの縮小による生態系の劣化を「生物多様性第2の危機」として生物多様性国家戦略で言及して20年が経つ今日、2050年までに現居住地の2割が無居住化すると予測される状況下でこの危機が改善される兆しはない。この危機を解消し健全な里山生態系を引き継ぐためには、人の営みの消失によって種組成や多様性が変化しやすい地域を特定し適切な管理を実施する必要がある。本研究は、全国各地の人の営みが消失した無居住化集落とその近隣の人が暮らす集落における里山指標植物(草地性種)の分布状況を調査して多様性の地理的パターンを比較することで、無居住化により多様性が変化しやすい地域とその特性を特定した。
無居住化集落とその近隣の居住集落を71セット選定して調査地とした。各調査地には、里山景観の代表的な要素(二次林、刈り取り草地、水田、宅地)を通過する1km × 100mのベルトトランセクトを設置し、歩行可能な道を踏査して指標種の在不在を記録した。指標種には、里山景観において二次林や刈り取り草地に特徴的に出現し、植物社会学的群落分類の際にススキクラスの標徴種として用いられる草地性草本のうち、広い分布域を持つ種を用いた。地理的パターンの検出には、地理的な隣接関係を考慮した結合型のクラスター回帰分析を用いた。
居住集落と無居住化集落の草地性種の地理的パターンを比較した結果、無居住化後に草地性種の多様性が維持される地域(東北)と減少する地域(東山、中国・九州北部)が存在することが明らかとなった。これらの地域は、里山における人間活動が存在する環境では同程度に豊かな多様性を有するものの、人間活動が弱まった環境では東北以外は多様性を維持できていない。東北と他の地域との差を、土地利用に着目して整理したところ、東北は無居住化後に荒地が多いことが明らかとなった。東北で行われる粗放的な植生管理は草地性種の多様性維持に貢献する可能性がある。